イホウジン

サンセットのイホウジンのレビュー・感想・評価

サンセット(2018年製作の映画)
4.3
たった一人の女性の視点から当時の社会の空気を見事に表現した隠れた傑作。
主人公の目力に終始圧倒。

映画自体はまさに「光が強く当たるほど影は濃くなる」ことを表している感じ。事実、街が賑やかな場面ほど主人公がシリアスな状況に陥っているという描写が多い。終盤の展開はまさにカタルシス。楽天的な社会の裏で燻っていた不満が爆発したような意味合いだったのだろう。
視点は完全に主人公の一人称で、他の登場人物の生き様等にはほとんど触れないような構成になっている。その分、登場人物(登場するかもしれない人物を含む)をメタファーとして、第一次世界大戦直前のオーストリア=ハンガリー帝国の危うさを表現しているのだろう。
主人公はかなり個性のあるキャラクターで、恐らく意図的に部分的に狂気じみたものを持つ人物に仕立てあげている。「知る」ことに囚われて、周囲の警告も聞かず次第に社会の暗部に気付き始める姿はとても興味深い。冒頭からラストまで貫かれる主人公の目力は、まるで帝国の行く末を初めから察していたかのようである。

主人公が真相に近づくまでのプロセスがかなりまどろっこしい。不必要な探索が多く、もう少し洗練されたストーリーにもできたはずだと考えてしまった。

事前にレビューで「謎が謎のまま終わるタイプの映画」だと把握していたので、ちゃんと推理以外の要素に目を向けることができた。
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