しの

ROMA/ローマのしののレビュー・感想・評価

ROMA/ローマ(2018年製作の映画)
4.4
映画とは何かと聞かれたとき、本作の名を答えたい。全く知らない誰かの人生を体験させ、そこに普遍的なものを見出させる。ファーストカットの時点で物凄い引力。床に流れる水、家の構造、町の光景。映るもの全てが「あの頃」を思い出させ、ひとりの女性への感謝と愛情を抱かせる。

冒頭、生活感溢れる音と美しく作り込まれた画面で一気に引き込むのが象徴的で、あれは要は人が大切な思い出を回想するときにそれが美化される感覚だ。これを全編に渡ってやっているから、どんどん他人の思い出が自分の思い出とリンクしていく。

家政婦・クレオの視点の使い方が巧み。まず彼女の人生、それを取り巻く家族の姿、更にそれを取り巻くメキシコ…という風に、ミクロとマクロが織り交ぜられ、気付けば「あの頃」を丸ごと体感させられる。(例えば洗濯するクレオ、その周りで遊ぶ子供、更に周りに洗濯物を干す家々…のシークエンスなど)。

ミクロ/マクロの関係だけでなく、生/死、或いは滅び/再生のイメージも重ねられている。地震と新生児、森林火災と動物の鳴き声、デモ虐殺とベビーベッド、羊水と海…。病院で揺れに気付き、遠くから火の粉を見つけ、家具屋から紛争を眺め、そして最後は…。大きな力(自然や歴史)とクレオ視点の対比が、そこにある生の力強さを強調する。

反復も効果的。家の中をぐるっと見せるショットの反復は、終盤で「新たな冒険」を示唆する。ガレージに車を入れるシーンは、一家の状況と連動している。そして冒頭とラストの飛行機(俯瞰視点)。この物語を回想する者(観客も含まれる)の憧憬、懐古、それに対する感謝と愛情が確かに伝わってくる。いや、伝わるというより、共に「抱ける」。

このように、映画的技巧や美しさに溢れているからこそ、単純なプロットに物凄い没入感やシンクロ感がある。恐怖や不安、理不尽に溢れる世界。そんな時にいつもそばに居てくれた大好きな人。時代も場所も違うのに、ノスタルジックな共通体験をくすぐられる。それは、必ずしも映像が白黒だからというだけではない。

パワーを感じれば感じるほど、来年まで我慢して劇場で観ればよかったという思いが強くなる。ちょっと現時点で完全な評価はできないが、暫定評価ということで。
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