Kuuta

グリーンブックのKuutaのレビュー・感想・評価

グリーンブック(2018年製作の映画)
4.0
実録バディもの、行って帰るロードムービー、良質な音楽、差別と戦う話、アカデミー作品賞…面白いに決まってる要素だらけの中、期待通り面白かった。

黒人と白人という線引きに、北部と南部の経済格差というもう1つの軸が加わることで、シャーリー(マハーシャラ・アリ)の孤独が浮き彫りになる。クラシック畑の黒人ピアニストもいて良いはずなのに、社会はそれを期待していない。トニー(ヴィゴ・モーテンセン)の心を開いたピアノの音色は、差別主義者なのに文化人ぶる米国人に消費されていく。

"If I’m not black enough and I’m not white enough and I’m not man enough, then what am I?" このmanは字幕では「人間」だったが、直前のYMCAでの展開を踏まえると「男として」って意味も入ってるんだろう。

で、こういうどんよりとした闇を無理やり搔き消すかのような、バーミンガムのキラッキラした人工的なクリスマスの照明。差別が絡んだ不穏な会話のヒリヒリ感。言語ネタやいろんな移民ネタも含め、いかにもアメリカらしいなぁと(トリオのメンバーとせっかくクリスマス休戦にこぎつけたのに、やっぱり勘違いし続けてロシア語にドイツ語で返事するトニーに笑った)

あえて南部に向かい、血を流して戦おうとするシャーリー。赤い痣を茶色のメイクで隠す=その場に相応しい格好にしつつ、肌の色をより強くする。

「個人的に差別はしたくないけど、土地のしきたりなんで…」とストレートな差別を繰り返す南部の人々に対し、「品位を保つだけじゃなくて一歩踏み出さないと変わらない」という視点。黒人に誘われても遊びの輪に加わらなかったシャーリーの、バーミンガムでの行動の変化。シャーリーの分のサンドイッチを食べ、ピンチの際は汚い買収も厭わなかったトニーだが、この場面ではシャーリーの食事のために買収を突っぱねる。

続いて訪れた黒人向けの酒場でも明らかに浮いているが、そんな事は気にせず、自分らしさを示すかのように酒場とは不釣り合いなショパンの木枯らしを弾き始める。そこに込めた思いは孤独なのか、怒りなのか。

どのコンサートでも演奏後に全く同じ笑顔を見せるのが気になっていたが、あの酒場でだけは心から笑っていたのだと思う。

長旅の道中は楽しくもあり、険悪にもなる。人間なんだから当たり前だけど、そんな2人の姿が愛おしい。2人を繋ぐ緑の本、緑の車、緑の石。車の運転を代わるのも、一見当然の支え合いではあるが、2人が主従関係・お金の関係を完全に抜けた事が分かる。イタリア系の友人の誘いを止めようとトニーに声をかけるシャーリーの表情も良かったなぁ。

2度目のパトカーの場面もグッときた。私も昔、1人での海外旅行でちょっと苦い思いをした直後、たまたま入ったお店の人に親切にされてなぜか泣きそうになったのを思い出した。ああいうストレートな善意が孤独な心に刺さる瞬間。旅行あるある。

湿っぽくなりかけると外しのギャグが入り、愉快な会話の中にフッと不穏な空気が混ざる、重すぎず軽すぎない大人な映画(差別描写が甘すぎるという批判も上がっているようだが)。

「寂しいなら自分から」を実践するビタースイートなあのラスト、「外見でなく中身を理解している人なら、ちゃんと受け止めてくれる」ってことだろう。82点。予告で流れてたI Count On Meは本編でも使って欲しかった。
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