ぴのした

グリーンブックのぴのしたのレビュー・感想・評価

グリーンブック(2018年製作の映画)
4.0
20230823 2回目の鑑賞
久しぶりに見たけどこんなに良かったっけ。平凡なバディものという印象だったけど、今見返すとただの「南部の古臭い黒人差別に抗う物語」ではないのがわかる。

黒人だけではない。イタリア人やユダヤ人、アジア人への目線。黒人は黒人でもいわゆる「黒人的なコミュニティ」に属さないことへの疎外感。そして「男でもいられない」というドクの孤独。何重にも差別や人の立場を考えさせられる。

トニーは前半、差別する側として描かれているようで、後半になってくると実は彼も構造的に差別される側でもあることがよく分かる。

それは単にイタリア系が他の"純粋な"白人から下に見られているということだけでなく、教養や文化的な面を通してもよく描かれる。

まともな職にありつけないのも、イタリア人同士での繋がりがやけに強いのも、彼らのこの国での立場の弱さの裏返しだ。さらに言えば、イタリア系の立場が弱いからこそ、さらに立場の低い黒人を差別して溜飲を下げていたのだろう。

一方、ドク。物言わずに反抗する姿勢に痺れた。否定され、なぶられると分かっていても礼儀正しく白人と同じように"普通に"接しようとする。自分を卑下したり、逆に熱くなったりもしない。ただ堂々とする、という静かな反骨心に彼のこれまでと決意を感じてグッと来る。前半は感情を表に出さなかった分、雨の車外で心の内を叫ぶシーンなんかは特に良かった。

グリーンブック。2人の融和を示す際に、この映画では緑が頻繁に登場する。透き通るような車体のグリーン。ダッシュボードに置いたお守りのヒスイ。トニーが最後の手紙を書くシーンは、グリーブックを手紙の下敷きにして書いているのが見える。手紙もまた、2人を繋いだ重要なツールだ。

最後の演奏シーンでピアノにウイスキーが置いてあるのとか、初見では見落としていた点や忘れていた点がいっぱいあって、(ドクが性的マイノリティだということさえ分かってなかった!)俺は何を見てたんだという気になる。良い映画は2度見た方が良い。

20190303 1回目の鑑賞
見てきたよ〜。しみじみ良かったです。

正直、大衆受けはそんなにしないと思う。手に汗握るドキドキも、衝撃のどんでん返しもない。

ただ、とにかく主役の2人が素晴らしい。いつまでもこの2人を見ていたくなる。そんな映画でした。

口汚く偏見にまみれた下町のイタリア親父トニーと、豪邸に住み礼儀や知識を持つ黒人ピアニスト、ドク。

要は「正反対の2人がお互いの良さを受け入れて最終的に仲良くなる」って話。『グラン・トリノ』とか『マイ・インターン』とか、使い古されたテーマなんだけど、展開がわかっていても王道はやっぱりいいね。

(他の人のレビューを見てると『最強のふたり』を思い出す人が多いらしい。4年くらい前にあの映画見た時は「山場がなくてつまんね〜」と思ってたんだけど、今見たら感想が変わるかもしれない)

何度も言うが、数ある中でもこの映画が素晴らしいのは、観客が見ていてこの2人のことを心底好きになってしまうところなんだよな。

トニーは口が悪くて一見嫌なやつだけど、こまめに下手な手紙で妻に愛を伝える家族思いの一面があってほっこりする。差別意識もすぐなくなるところを見ると、教養がないだけで根は真っ直ぐないい奴なんだなって感じがする。

仏頂面のドクは、堅物そうに見えてひとりぼっちの孤独感や弱さを持っているところも人間味がして良い。それをトニーに打ち明けられる関係を築けたのも良い。バーで即興をやったときとか、フライドチキン食べる時とか、たまの笑顔を見るとこっちまでなんだか嬉しくなる。

ラストシーンもすごくほっこりしてよかった。この妻がまたすごくいい役で、「ニガーと呼ぶのをやめろ」とトニーが親戚を注意する場面、話題をそっと替えたりトニーの手を握って嬉しそうな顔をしたりする。

各場面をこう思い出していくと、どうしても良い映画としか呼べないけど、もうちょっと分かりやすい山場があってもよかった気もする。

やっぱりあっさり終わってしまう感があるので、終始お行儀の良い印象。メインターゲットがこの映画の金持ちパーティにくるような層になっている。せっかくなら南部のバーでドクを殴るような人にも届くような分かりやすさがある映画にしたら?

それにしてもあのピザの食べ方は笑った。参考にします笑