劇場は満員。最高でした。
静かにスクリーンに集中する観客席を見て、今、「ジョーカー」が公開される意味に気付かされました。
それは皆がジョーカーというキャラクターに惹かれているという理由のみならず、人々が今この時代にジョーカーを求めている気がしてならなかったのです。
貧富の差が激しくなり、地位や財産を築いた一部の人間たちは自分に都合の良いように社会を動かし、法律を破り、下の世界で苦しむ人々のことなど気にも留めない時代。優しさや温かみを忘れた下の世界で生きる人々は今を生きるのに精一杯で、怒鳴り合い、悪態をつき、他人の子供をあやすことも許されないほど余裕を失った世知辛い世界になってしまったのです。
精神病に悩むアーサーの声を誰が聞いてあげたのでしょう。ソーシャルワーカーでさえ、彼の話を聞かなかったじゃないですか。
苦しむ声を聞き取ってもらえず、存在を失いつつあった多くの人々の鬱憤は限界に達し始めました。そして、いつしか一部の横暴を働く権力者を「上級国民」と呼び、国民の敵として反撃に転じ始めたのです。
さて、この話、どれがゴッサムシティの話で、どれが今の私たちの世界の話でしょう。
そこに明確な違いを線引きできる人がどこにいるでしょう。
ゴッサムシティの退廃した街並みは、決して架空の街とは思えません。
ゴッサムシティは世界中にあります。おそらくこの国にもあります。
やがてこの嘆きの国の中で誕生したジョーカーが混沌を呼び込む気がしてなりません。
劇場を満席にした観客たちがジョーカーに対して肯定するわけでもなく、しかし決して否定もしていない雰囲気が、まるでゴッサムの予兆のような気がしてなりませんでした。
