そのじつ

ジョーカーのそのじつのレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
3.7
なんでしょう、今まであじわった事のない面白さ。
知れば知るほど悲惨でどん底。もう底打ったと思ってもまだ下がある。その綿密かつ用意周到なクソ人生ぶりたるや。
ただしアーサーは己の置かれた状況のクソっぷりを認識するごとに、目は光を取り戻し、行動は自信に満ちてゆく。
薬や親の呪縛によって押し殺されていた本当の気持ち、言いたい事、やりたい事があふれ出してくる。
それはおそろしい犯罪の暴発で、社会の倫理を裏返した世界の到来なのだが、抑圧され搾取され尽くしたジョーカーが自分のあり様に目覚めてゆくのに拍手を送りたくなってしまう。

アーサーの裸の上半身を見た時衝撃が走った。命が危険なくらい痩せてないですか?まさに鬼気迫る。


この作品の優れているところは、主人公への単純な肯定や憐憫にならない位置どりで語られるシナリオ。

主人公の目線で全てが語られているので、そもそも本当の出来事かどうかもあやしい…という前提でありながら、「おや、これはちがう解釈もできるぞ」という情報を散りばめてある。

リアリズムとファンタジーのさじ加減が絶妙で、情にうったえる処理を入れながら頭の芯は冴えてる感じの作り手の悪魔的目線を感じて怖くなる。

映像面でもそうで、はじまりのアメリカンニューシネマ風な情景が、そびえ立つビル群に一直線に疾る鉄道の異常に真っ直ぐなレールの画とかのアメコミ風カットとつながったり離れたりする。

オマージュが満載だけれど、それを活かす手法や感覚はあたらしくて馴染みがない。
新しい時代の感覚が生まれつつあるのかもしれない。

現代のニコライ・スタブローギンたちの魂をくすぐる映画だった。
そのじつ

そのじつ