くりふ

カプリコン・1のくりふのレビュー・感想・評価

カプリコン・1(1977年製作の映画)
3.5
【テイク・ミー・オフ・マーズ】

『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』を見たら、やっぱりコチラを見返したくなり、U-NEXTにて。

子供のころ劇場で見て、単純な陰謀でつないだアクションとして、えらくオモロかった記憶があります。

当時は王道エンタメとして作られた筈。が、いま見返すと、まず冷笑コメディとして愉しむものかなと。『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』と比べるとより、そこが味わい深い。

そもそも初見でも、冒頭のロケット発射直前で衆人環視の中、ああすりゃ報道陣に「乗組員が降りて来たようです!どういうことでしょうか!?」となる筈なのにスルーされ、子供心にもフシギでしたわ。

が、当時は“有人宇宙飛行はもはや注目されない”時代だから!“マーズ・フェイク”を仕組まねばならなかった原因も、関係者の横着と横領。そんな人間界を苦笑するのが作劇の前提なんですね。

しかしピーター・ハイアムズ監督の興味は、そこから人間を炙り出すのではなく、アトラクション化することに傾いている。後のハリウッド幼児化潮流をみれば、むしろ先見の明があったのかも?

人物はアクションをつなぐ駒のように動くので、静的場面は急に退屈。ヒーローたちが砂漠を彷徨う局面は重要な筈なのに、蛇足にさえ感じる。…蛇自体wは、異様に生々しくてうわ70's!と思ったものの。

多分、人物掘り込みの要は、黒幕ハルおじさんの本音や葛藤と、結果的にヒーローとなってゆくスチャラカ記者との対立ではと。そこに潜む組織(=国)への不信を本作は、煽っても暴く気はないように見える。

アポロ計画陰謀論布教の始まりとも言われる本作、確かに考察レベルは陰謀論者のオツムと同程度かと。

制作時1977年のアメリカはベトナム戦争が終わり、ウォーターゲート事件発覚後のタイミングで、奇しくも『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』が背景とした社会的お題の続きともなっているが…。

駒人間の中ではむしろ脇の、特別出演枠カレン・ブラックとテリー・サバラスが光っている。前者は、結局は男を立てる女として、後者は胡散臭さを強さに糊塗し、クライマックスの大バトルを支えている。

他、追手のヘリが擬人化されたように見えて、悪役としての面白さを醸しているんだよね。『激突』『ジョーズ』の影響などもあったのでしょうが。

悪役ヘリが目立つようになったのもベトナム戦争の影響かな?1976年版キングコングでも、コング殺しがオリジナルの複葉機から変わっていたし、代表的なのはやっぱり『地獄の黙示録』だろうけれど。

ラストを邦画みたいな説明的にせず、映像で端的に見せたのは今でも巧いと思うが、初見時はモヤモヤした。今思えば、フェイク映像で世界を騙そうとした連中なら、あの“映像”も逆にフェイクだと言い切って隠蔽するかも…と直感的な疑惑が走った気がする。だから解決とは思えなかったのかなと。

ところで何のかんの言っても、耳に残るが腹にも響く、ジェリー・ゴールドスミスの音楽は娯楽映画向けには天才仕事で、本作の七難をずいぶん、隠蔽してくれたと思います。

<2024.7.23記>
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