Bell

アド・アストラのBellのレビュー・感想・評価

アド・アストラ(2019年製作の映画)
3.8
公開終了ギリギリで、観に行くことが出来て良かったです。
良い作品でした!



現在から、そう遠くないかもしれない、少し先の未来。

宇宙開発が発達し、人類は、地球外知的生命体を探求するようになっている世界。

その計画に尽力し、宇宙船に乗ったまま、16年前に消息を絶った父親を尊敬する主人公のロイ。

彼は父のようになりたくて、父と同じ宇宙飛行士の道を選びました。

ある時、巨大な電気嵐が多発するようになり、火災や飛行機の墜落事故などが後を絶たず、このままでは地球の危機と懸念されます。

そんな中、ロイは、アメリカ宇宙軍の上官から、「16年前に宇宙で行方不明になった父親は、宇宙のどこかで生きている。そして、彼の実験がこの電気嵐を引き起こしており、地球の脅威となっている」という、最高機密事項の衝撃の事実を告げられます。

こうして、ロイは、父に一体何が起こったのか、その真実を知るために、父の消息を探る宇宙へと旅立つのでした。


・・・というお話。


予告編のイメージだと、アクションであったり、サスペンスであったり・・・なSFを想像しちゃいますが。

アクション要素はかなり低めな、どちにかというと、『父を訪ねて40億km』って感じのヒューマンドラマでした。

なので、アクションやサスペンスを期待していた人には、少し物足りないのかもしれませんが、私は大いにツボりました。

こういうSF大好きです。

なんというか、宇宙を描くSFでありつつ、宇宙のような主人公の内面の旅を描いている・・・というか。

静かな中に、心に響くシーンが多かったです。



そして。

宇宙のシーンに、ただただ圧倒されました。

息苦しくて、閉塞感があって、暗くて、孤独で、不安な気持ちにさせる宇宙空間。

見ている私も、宇宙空間に孤独で投げ出されたかのような不安定な精神状態を感じずにはいられませんでした。

そんな宇宙空間と、主人公の心の裡が、凄く似通っているのですよね。

「自分は常に冷静で、他者とも距離を持って接する、安定したメンタルで宇宙飛行士という任務を遂行しなくてはならない」。常に、そういう意識で生きている主人公ですが、それは、どこか自分によそよそしく接し、そのまま行方不明になった父との関係によるものでもあり。

本当は、他者と深く関わることを恐れていることの、裏返しでもあるのですよね。

常に冷静であれ、任務のために行きよ、と自分に言い聞かせながら、月や火星を訪れ、そこで経験する数々の出来事。

思い出す恋人との関係。

父への疑問や、かつての不満。

閉塞的な宇宙空間で孤独と戦いながらも、主人公は自分の内面と向き合い、そして、父親と向き合い、自分のこれからへの結論を出そうとする。宇宙の旅でもあり、精神の旅でもあるのかなぁと思いました。

なので、自分と向き合い、父と向き合い、最終的に地球に帰還するシーンは、暖かみに触れて感動的でした。



よく、色々なSF作品で、人類が宇宙に移住しているシーンなどが描かれますが・・・この作品を見ていると、やっぱり、人類は宇宙では暮らせないのかなぁと感じましたし、ラスト、地球の緑が見えた時は、主人公と同じ気持ちでホッとしました。

地球や人間のぬくもりの有難さに、改めて気付かされた、という感じかな。

また、この作品の中では、火星に地下施設があったり、海王星まで宇宙船で行き来出来たりと、かなり宇宙科学が発達している世界ではありますが、凄い機械やロボットが出てくる訳では無いところが、逆にリアルで。

近い未来、本当に、こういう世界がやって来るのかな?と思えたりもしました。

リアルなSFですね。



とにかく、宇宙のシーンが圧巻で、そして、父と子の人間ドラマでもあるSF映画。

静かながらも、とても心に残る作品でした。
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