【なぜ秀才は狂気に憧れるのか？】
敗戦後の焼け野原を博打で生き抜いてきた坊や哲。大一番で勝ちを手中にした瞬間、彼は2020年の東京にタイムスリップしてしまう......
佐藤佐吉さんによるぶっとんだプロットは決して悪くないと思います。現代日本への風刺をクレイジーな笑いでマシンガンのごとく連射する...こういうイメージだったのでしょう。
しかし、監督は白石和彌さん。根っから狂っている三池崇史監督とは違い、映画に真面目な監督です。それがまずかった！
『アンダー・ザ・シルバーレイク』にも感じたことですが、秀才が一所懸命真面目に狂ってみせているようにしか見えないんですよ。狂気が皆無で。たとえば、シマウマのアレも、真面目に撮りすぎていて笑いに繋がらないんですよねぇ。もっと勢い任せに撮ってくれたら、この脚本が活きたかもしれないのに。
白石和彌監督は、個人的には最も信頼している現役映画監督の一人です。それだけに少し残念な出来でした。
とはいえ、斎藤工さんが長年取り組んできた企画とあって、和田誠監督版への憧憬はたっぷりと感じられます。
「原作レイプ上等！」という姿勢の割に、和田誠監督版への愛が溢れちゃってるのが、いいことなのか悪いことなのかは、なんとも言えないところですが。
これからご覧になる方には、和田誠監督版を先に鑑賞することをオススメします。その上で、どうぶっ壊しているのか、どうリスペクトしているのかを、各々楽しんでいただければ。
※ピエール瀧容疑者の逮捕が、図らずも作品の毒と重なり、作品自体への皮肉となっていることに、私は驚きました。不謹慎を承知で書けば、あのスキャンダルが作品に面白みを付加してしまっているんですよ。こんなこともあるんだなぁ。
