ウシュアイア

メランコリックのウシュアイアのレビュー・感想・評価

メランコリック(2018年製作の映画)
3.0
東大法学部を出て一度も定職につくことなく実家暮らしでアルバイトで生活する和彦が、高校の同級生と再会した銭湯でアルバイトをすることになる。その銭湯は営業終了後に殺し屋の仕事場(標的を連れ込んで始末する場所)として貸し出されており、一緒にアルバイトとして働くことになった松本との奇妙な友情を描いた作品。


人殺しが行われる営業終了後の銭湯という素材は奇抜であるものの、ストーリー展開は予想の範疇を超えず、いたってオーソドックス。和彦と松本の間の奇妙な友情が本作のテーマのようであるが、これも共犯者の連帯感という普遍的なものなので、共感のとっかかりのようなものはある。ただし、この作品における殺人という罪への罰に対するスタンスにはもやっとさせられる。

一方で、とにかく主人公の和彦という人物にリアリティが感じられず、この作品になかなか没入できなかった。

東大法学部卒というと一流企業や官僚になる人が多く、東大法学部に入ることができるのは東京近辺出身者なら国私立の中高一貫校で東大受験に特化した予備校などに通い、経済的に裕福で教育熱心な家庭の出というのが一般的なイメージだと思う。いやーな話だが、和彦の家庭環境、百合のような同級生の存在、話している言葉などどれを取ってもとても東大法学部出身者とは思えず、東大法学部出身者の中でも極めて特殊に特殊が重なっており、実在するようには思えない。世間一般には高学歴で百合のような恋人をもち、和彦のような生活をしている人はいると思うが、高学歴(松本との対比)の記号としての東大法学部卒という設定は流石に雑だと思う。こういうレベルの雑な設定や社会の描写は他にもあり、どうしても気になってしまう。

『ドライブ・マイ・カー』に対して、今でこそシネコンで上映されているためにそういう感想を抱く人も出てき゚はしたものの、カンヌ受賞が決まる前には「上映時間が長く大きな盛り上がりがなく退屈だった」というような感想が許されない空気があったように、この作品には「設定にリアリティがなかった」という感想が無粋だとされる空気が漂っている気がする。何か大きな映画賞を受賞して再上映されるような作品というわけではなかったため、そういう感想を抱く人はこの手のアングラ感やインディーズ感の強い作品を観ないと思う。Filmarks界隈では高評価でも、観る人を選ぶ作品だと思う。
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