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君は月夜に光り輝くのtetsuのレビュー・感想・評価

君は月夜に光り輝く(2019年製作の映画)
5.0
「月がきれいですね」
かつて小説家の夏目漱石は「I love you」という言葉をこのように訳したそうだ。本作にも月が登場するように、人が「愛」を伝える時、ふと月を連想するのは今でも変わっていないのかもしれない。

病気のクラスメイト・まみずのもとへお見舞いにやってきたクラス代表・岡田。余命期間を過ぎても退院出来ない彼女は、岡田に「人生でやり残したことの代行」をお願いするが...。

同じ監督が手掛けた『君の膵臓をたべたい』とテーマが共通していることや、設定の突っこみどころの多さから、好き嫌いが別れそうな本作。
しかし、それでも僕の心には刺さったということを伝えておく。

何より、本作で心動かされたのは、主人公が面会を拒まれるシーンだ。

「もう何度も会えるわけじゃない。」
そう看護師に言われながら、病室に向かった岡田は薬の副作用で眠そうなヒロインと会話をする。
そんなシーンに僕は亡き母との記憶を思い出した...。


それは熱い夏のこと。
病院のテラスで兄は握り拳に力を入れ、僕に重い口を開いた。
「お母さんと、ちゃんとしゃべれんの、今日が最後かもしれん...。」
兄の声はやけに落ち着いていたけど、その言葉は僕を心配させないようにしていたからだと気づいた。
「いつも通りにしゃべるねんで...。」
そう言った兄のうつむいた顔を見た後、時が止まったように、ただ蝉の鳴き声がこだましていた。
病室に着いた僕たちは母と他愛もない会話をした。
病室のTVに映された話題とか、今日の晩御飯は何かとか。
でも、ふと母の顔を見ると、僕は耐えきれなくなって、大きなベッドの横で、溢れ出す涙を必死に隠した。

あれから3年、
正直、僕は、その声や顔をはっきりとした輪郭を持って思い出すことができなくなってしまった。

しかし、本作の1シーンを観た時、ふとあの瞬間が蘇ったのである。

「果たして僕は母の人生の代行が出来ているのだろうか。」

そんな物思いに耽って映画を観ていると、着ていたTシャツの首元が濡れていた。


今後、本作が『君の膵臓...』の二番煎じや、邦画にありがちなお涙頂戴映画だと言われることもあるだろう。

しかし、この作品が、かつての記憶を鮮明に思い出させてくれたのも確かだ。

パンフレットによると、原作者は、身近な人の死や自身の体験をもとに原作を書いたそうだが、それは映画も同じで、物語には嘘と真実が混じりあっているのだと思う。
それが僕にとってもそうであったように...。

そう言えば今日は母の日らしい。
色々な苦労を考えると、僕は最後まで親不孝な子供だったかもしれない。
でも、もし今でも母に伝えることができるなら、こう言いたい。
「今でも、月はきれいだ」

参考
STARDUST - 月川翔 難病の女の子が出てきますが、生きていくということについての映画にしたいと思いました - スターダスト オフィシャルサイト - インタビュー
https://www.stardust.co.jp/interview/article/tsukikawasho/01.html
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