原作者のブログ記事で興味を持ち、鑑賞。
精神科医・藤代の前から、婚約者の弥生が消えた。癒えない傷を抱えるなか、その消息を追う彼。鍵を握るのは、かつての恋人・春に隠された真実だった……。
鑑賞中のほとんどはモヤモヤしていたが、初めと終わりが素晴らしいため、見事にお茶を濁されてしまい、総じて好きと言わざるを得ない作品だった。
ミステリアスな導入で引き込まれ、登場人物の行動から次第に心が離れ、クライマックスの急展開で持ちかえし、ラストカットで｢ええもん見せてもらいましたわ……。｣という感情になるという。笑
こういう手のひらの上でまんまと踊らされてしまった感も含めて、脚本・プロデューサーの川村元気さん、恐るべしな作 品ではあった。
傷心直後、上りエスカレーターの降り口で泣きながら座り込む彼。
元カレへの未練タラタラで世界中を旅する彼女。
娘への執着から他者を追い詰める彼。
自己都合な理由で姿を消す彼女。
登場人物の全員が揃いも揃って、悪い意味で"エゴイスト"
いちいち鼻につくというか、気取ってる感じというか、おそらく誰しもが抱えている感情ではあると思うので否定はしないのだが、鑑賞中は中々ストレスフルな体験だった。
この部分には岩井俊二監督に近い｢川村さんの作家性｣を感じるのだが、登場人物に共感しがたいというのは大きな違い。
彼らの思想や言動は複雑で、時には矛盾した行動をとることもある。
その辺りがリアルかつ、観ていて辛い部分なので、賛否が別れるのだろうなと思った。
また、演者としては、朗さがかえって影の部分を際立たせる森七菜さん、濃度高めの塩対応で佐藤健さんに拮抗する河合優実さんが白眉。
撮影・今村圭介(映像美が高く評価されている藤井道人監督作の常連)さんの手腕も遺憾なく発揮されており、"何気ない日常"を切り取ったラストカットから主題歌｢満ちていく｣の流れは完璧だった。
この数秒を観るためにでも、劇場に足を運んでほしい一作。
参考
新海誠に「気持ち悪いです」と言い放って怒らせた！『君の名は。』プロデューサー川村元気の仕事術｜LITERA／リテラ
https://lite-ra.com/2016/12/post-2797.html
(プロデューサー・川村元気さんが『君の名は。』でおこなった作家性の取捨選択の話。プロデュース術の一端が垣間見られるため、面白い。)
第５話 四月になれば彼と彼女は｜川村元気 Genki Kawamura
https://note.com/genkikawamura/n/nb84b2d3b581c
(原作のきっかけとなったエピソードが綴られているブログ。これを読んで、見事に劇場へ引き寄せられてしまった。売り込み方が上手い……)
【川村元気×ティファニー×ゼクシィ】森七菜＆仲野太賀、すれ違いながらも結婚決意へ… ティファニーのショートフィルム第3弾が公開
https://youtu.be/E-N1giRTXIY?si=jgwSrPEYSeawmvCt
(本作出演の森七菜×仲野太賀がカップルを演じたティファニーの短編。かなり好きな短編だが、まさか監督×脚本も本作と同じコンビだったとは……！)
【tiny desk concerts JAPAN】藤井 風「満ちてゆく」NHKオフィスで行った珠玉のパフォーマンスからをフルで解禁
https://youtu.be/ldVTbMypH_k?si=zppxWOEDxVHsJa0U
(作品の満足度を大幅に引き上げている藤井風さんの書き下ろし主題歌。原曲は劇場で聞いてもらうとして、あえて最近の推しアーティスト"にしな"さんがコーラスを担当したNHK放送版で。)
