のほほんさん

第三夫人と髪飾りののほほんさんのレビュー・感想・評価

第三夫人と髪飾り(2018年製作の映画)
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ベトナム映画と言えば「夏至」を観たことあるくらいか。でもその美しさはトラン・アン・ユン監督の名前と共に鮮烈に心に残っている。
本作を知った時にはすぐに「夏至」を思い出したし、そして監督の名前も見つけた。


本作もまた、やはりその美しさが再び何を差し置いても印象に残る作品。少女が舟に乗って嫁入りしてくる冒頭から既に圧倒的な美しさ。
エンドロールでスモークやグリーンのスペシャリストがクレジットされていたのだが、きっとそういう人がいたのだろうというのがよく分かる。
村を囲む岩山。質素さと装飾性が並び立つ家屋。雨に濡れる草木。そして女性たち。
穏やかなトーンで交わされる言葉もまた美しい。

これだけ美しい映像の中で紡がれる、封建社会で女性たちが置かれた現実。
本作で封建社会の長である男たちの存在感は無い。一番目立つのは第二夫人に恋い焦がれて自らの結婚に踏み切れない情けない長男くらい。

女性たちはその社会の中で生きるしかない。その運命を受け入れるしかなく、その他の選択肢もない。
結婚を拒まれた長男の花嫁は自殺をし、それが長男が原因にあろうともそこに抗議も出来ない。

第二、第三の夫人が来ても包み込む第一夫人。長男の求愛を拒む第二夫人。深くは語られないけど、好きな人から貰ったネックレスをずっと身につけて夫人たちを支えるお手伝いの女性。
彼女たちはその社会の中で、やはり強く美しい。

一見美しいとは真逆の、蚕のアップ。
しかし、幼虫がやがて繭を作り糸となる。
そしてその繰り返し。
しかし無感情に映し出されるその営みが、人間社会を内包しているようであった