サムカワ

運び屋のサムカワのレビュー・感想・評価

運び屋(2018年製作の映画)
5.0
僕がきっと生涯を通して繰り返し観る作品のひとつになりました。


試写会にて。


大好きなイーストウッドの集大成的な作品。
かといって、わざわざ大団円的な大げささもないし、ウェルメイドに静かに仕上げてみせる抑えた手腕にシビれ続けました。


前半はイーストウッドのパブリックイメージをイジるくらいなポップでほっこりして、クスッとわらえるハートウォーミングな、なんならコメディ映画くらいの軽さで楽しいですが、
ある重大かつショッキングな事態がサラッと起きたことをキッカケに、映画のトーンは大きくハンドリングします。


とにかく映画全体を通して
映画人イーストウッドの自らの贖罪の物語な気がしてきて、その色を増す後半はずっと心が苦しくて、涙がジリジリと溢れ続けました。


すごい身もふたもない言い方をすれば「グラン・トリノ2」みたいな。



血縁の家族とは不仲だし、若い女の子とイチャつくし、これ見よがしに懐に手を入れるし、差別発言はする。
そんなTHE イーストウッドが演じてきたキャラクターが行き着く末路と選択。

そしてエンディングの曲。


それらが僕には言葉で表せないものとして押し寄せてきて、映画が終わってすぐには立てなかったです。


この歳でも未だに現役で映画を作りつづけるイーストウッド(それでもいつ幕引きがくるかわからない切迫感を自覚している)と、
最近「アリー/スター誕生」で監督としても頭角を現したブラッドリー・クーパー(これからの映画界を担う世代)が、
2人だけで会話をするダイナーと終盤の車のシーンは、
思い出すだけで涙が出てくる名シーンでした。


ギャングや主人公家族たちは、これまたイーストウッド映画らしく無名の役者さんたちの、新鮮かつリアルな空気感が心地よく、
対する警察側は、見知った有名俳優たちで手堅く固めて、極上のクライムサスペンスとしてのトーンがクッキリ出ていたのがカッコよかったですねぇ。

イーストウッドのフィルモグラフィとは関係なくとも、
現役を退いた人、これから頑張るんだ!って人、ようはすべての人に届く作品だと思いました。


誰の心にも響く敷居の低さと、一本の映画としての質の高さがこれでもかって共存した傑作だと思いました。




あとすごくどうでもいいことですが
前半のパーティのシーンでイーストウッドの監督作「ジャージーボーイズ」でも流れた、フォー・シーズンズの「Mooby's Mood for Love」がアレンジされて流れてたのに気づいて嬉しかったです。


【2019/03/17】
ユナイテッドシネマ ウニクス南古谷にて
2回目

前回はすごく重く本作を受け止めてたので、今回はコメディ映画としての楽しさを意識して観ました。
リップクリームのシーンが最高すぎる

それでもやっぱり最後はジンワリと涙が溢れてきました。
サムカワ

サムカワ