空海花

象は静かに座っているの空海花のレビュー・感想・評価

象は静かに座っている(2018年製作の映画)
4.4
この4時間は結構キツいかも…
心と体が元気な時に観ることをおすすめします。
決してテンポの良い映画ではないので興味のある方は心して観るべし。
周りの人が結構すごい姿勢になりながら観ていた。
でも退屈はしません。
若き監督のデビュー作にして遺作になってしまった話題作。多くの賞を獲得している。

満州里には、一日中ただ座り続けている象がいる。
所在のなさや逃亡の理由を抱えてしまった少年、少女、おじいちゃんたちが、ただその象を見ようと遙か遠い満州里に辿り着こうとする物語。

自然光とグレーの世界。
中国の作品でこうもグレーの表現が出来ているものは貴重な気がする。
フィルム感も強く
長回しやバックショットの多様。
カメラは1点を追いフォーカスする。
時折焦れったいし、長回しは睡魔を誘う。
でもこのカメラの感触がじわじわ来る。
タル・ベーラを師と仰いでいることに納得。
フー・ボー監督拘りの映像、一見の価値はある。

象を見ることに希望を託すほど、何かがあると信じている訳ではない。
当初想像したロードムービー感さえもない。
そもそもなかなか出発しない。
行くまでが本筋のようである。

彼らの生きる世界は、決して豊かではないが、
貧しさだけではない貧しさが生々しい。
大人はとても疲弊していて、そのせいで苛々していて余裕がない。
若者はやることがない。
「ジョジョ」の母のいう「すべきことをする」を思い出したが
「すべきことをしてない」人が集まるとこんな行き詰まった世界になってしまうのかと思い愕然とした。
個人的にはジンおじいちゃんのエピソードがつらくて思わず怒りがわいてきた…
ジンと主人公ブーの演技が好きだ。
主役格あと2人も良かった。
役者の息づかいがよく伝わる。

希望なんてないかと思っていたけれど
それでもラストシーンは素晴らしい。
これもグレー。強烈なグレーだ。
救いは、ない。
でも自分の心は自分が救うしかない。

劇中とエンドロールの現代風だがどこかノスタルジックなメロディーも良い。
これはギターの音色?


2020劇場鑑賞23本目


以下少しネタバレ?


元を正せば誰が悪い
という言葉がある。
例えば、親の育て方が悪いとか社会が悪いとか
これが意図して所処に散りばめられる。
それも割と遠いところまで降りかかる。
裏の裏を辿るように。
どこまで辿ろうが、実際にどうだろうが
責任は自分で取るしかないんだなと思った。

写真の監督の笑顔がとても優しそうで胸が詰まる。
前日のロマン・ガリもフー・ボー監督も自死を選んでしまった。どうか安らかに。
空海花

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