Morizo

ウエスト・サイド・ストーリーのMorizoのレビュー・感想・評価

4.0
オリジナルからの一番大きな変更は新キャラのバレンティーナの登場で、この存在が映画のテーマを変えたと感じた。

・ Somewhere Someday ~ 未来への祈り

オリジナルではトニーとマリアが歌った祈りの歌 Somewhere、今作ではバレンティーナという老婆(俳優のリタ・モレノは90歳)が歌う。

彼女が歌うことで、us は若い二人ではなく、US(アメリカ)となり、恋の成就ではなくアメリカが1つになるという祈りに昇華されていた。

ウエストサイドストーリー初演の1957年からアメリカを観続けてきた存在に歌わせることによって「some day」は65年後の現代にそれが来ているかと観客に問いかける。

リメイクだからこそ込められるメッセージで心憎い演出。

・ 男女

ダンスパーティーでひと目あっただけで運命の人と思いつめてしまうトニーとマリア。

若気の至り過ぎて破局までのストーリーも見えてしまうが、人間は見た目、歌、ダンスとかで本能的に惹かれあうものという共通のものが、人種などの壁なく普遍的に存在している、ということを描かれているとも言える。

・ 愛と憎しみ、絶対悪

根っからの悪っぽく描かれた登場人物はリフにピストルを渡した大人くらい。
(銃入手の経緯はオリジナル作品になく、アメリカの銃社会への警鐘を込めたと思われる)

クリプキ巡査の歌で、自分たちは被害者でもあるということも明示される。
トニーがマリアに対してリフをかばう発言などもあった。

悪は作られるものでありそれがゆえに乗り越えることもできるものであることが提示される。

皆、アメリカという場所で自分の居場所を必至に探しているだけである。
そして、彼らが犯す過ちは、仲間や家族を愛するが上にされる。

ベルナルドが妹を愛するがゆえ、トニーが弟分を愛するがゆえ、チノが許嫁を愛するがゆえ…。

愛と憎しみの一体性があぶり出されても言える。

リメイクでSomewhereを二人称の歌にしなかったのは、憎悪の連鎖を断ち切ることは二人称の愛を見つめ直すことでもあるという意味も込めたのではないかと感じた。

・ マイノリティー / 差別
人種、LGBTQ+、貧富、といった断絶がオリジナル作品よりも明確に提示されていた。

スペイン語に字幕を入れなかったことにも役者の起用にも配慮が感じられる。

世間から差別される存在に反発しつつも、自分たちもイタリア系や性同一性障害をバカにする発言。
プエルトリコ系移民のベルナルドがポーランド系移民を蔑視する時に、彼女に「アメリカ人らしい」と評されるシーン。

ジェット団もシャーク団もマイノリティーとして迫害されていることが示されつつも、自分たちも迫害してしまうことをやめられないという泥沼を通して、悲劇が起こる。

それでも、敵も仲間を愛する存在であるという共通点で結ばれていることを見出し、一つになる可能性への希望が示されてこの映画は幕を閉じる


現代の日本人が観て色々と違和感のある場所もあるものの、歌とダンスの力は素晴らしく、長回しのパフォーマンスなどさすがで、映画館で観るべき映画だな、というのが全体の感想。
Morizo

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