たく

キラーズ・オブ・ザ・フラワームーンのたくのレビュー・感想・評価

4.0
マーティン・スコセッシ監督最新作は、1920年代のアメリカを舞台にオイルマネーの権利を狙って次々とインディアンが殺されて行く実話を基にした話。ロバート・デ・ニーロの老獪さが役にピッタリで、マーロン・ブランドみたく口をへの字に曲げたレオナルド・ディカプリオの困り顔が、叔父に利用される人の良さを上手く表現してた。3時間半長かったけど、無駄なシーンがなくて退屈しなかったのはさすがスコセッシ。電車遅延のせいで最初10分ほど観逃したんだけど、おそらく冒頭で実話を基にした話というテロップが出たはず。白人男とインディアン娘が結ばれる映画には「大いなる勇者」があったね。

第一次世界大戦の帰還兵であるアーネストが、有力者である叔父のヘンリーを頼ってオクラホマ州にやって来る。ここで運転手の職を得たアーネストが、ある日偶然乗せたモリーというインディアン女性と恋に落ちて結婚するんだけど、インディアンはこの地で石油を発見して莫大な資産を手にしており、そこに目をつけたヘンリーがアーネストに資産を継がせようと画策して行く展開。ヘンリーが強欲な本性を隠して地域住民から厚い信頼を得てるのが何とも不気味で、人の良いアーネストがヘンリーに入れ知恵されて半ば盲目的に従って行くのが歯がゆい。

この地ではインディアンの資産狙いの殺人が日常茶飯事のように起きてて、おそらく警察が白人に買収されてるせいで全く捜査がされず放置状態。モリーの親戚についても例外ではなく、姉妹や母が次々と亡くなり、そのうち露骨な殺人にまでエスカレートして行くのがゾッとする。そんな狂気の世界の中で、アーネストとモリーの閉じられた愛情空間だけがオアシスのような救いとなる。‥と思ってたら、モリーの糖尿病治療のためのインスリンに、何やら怪しい薬物を混入させることにアーネストが加担させられるのが、どんだけお人好しなんだよ!ってイライラした。彼がその薬物をウィスキーに入れて自分で飲むのは罪悪感を打ち消すためだよね。モリーが自分に投与されてた薬を夫に問い詰めるシーンが、アスガー・ファルハディ「別離」で娘が父親に使用人の妊娠を知ってたかどうか問い詰めるシーンに重なるなーと気付いて冷や汗が出た。

終盤で事件が明るみに出て、捜査が一挙に進むあたりの追い込みがスリリングで引き込まれる。アーネストがようやくヘイルのくびきから解放され、全てが終わってからの後日譚を当時流行ってたラジオショー形式で説明するのが粋な演出。効果音のテンポ巧みな入れ方にスコセッシ節が効いてて思わず見入ったし、ダメ押しでスコセッシ本人ご登場に、ああそのためにこの演出にしたんだろなと苦笑い。裁判シーンで唐突なブレンダン・フレイザー登場にさっそくアカデミー賞受賞効果かなとびっくりして、久々に見るジョン・リスゴーの現役感もしみじみ来た。モリーを演じたリリー・グラッドストーンは、ダ・ヴィンチのモナリザを思わせた。
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