幽斎

UFO -オヘアの未確認飛行物体-の幽斎のレビュー・感想・評価

4.2
北米では劇場公開されずビデオスルー(後述)。日本では完全にノーマークだが、SF好きなら見逃すのが惜しいサイエンス・スリラーの佳作。低予算では有るがB級感は皆無で、特に「X-ファイル」が好きな方には必見!。新作のUFO映画と比較して頂く為に、他所で書いたレビューに加筆してます。

リアルタイムで「X-ファイル」を見て無い世代なので、興奮度は先輩の受け売りだが、薦められるまま劇場版を見たが、かなりの周回遅れでGillian Andersonのファンに成った"笑"。ネットが普及した現在では「X-ファイル」成立は難しく、政府の陰謀論が肯定化された今と為っては、リアリティが現実に勝る。2020年4月アメリカ国防総省がUFOの可能性が有るフッテージを公開、自国の防衛に対する脅威を初めて認めた。それはアメリカ海軍が訓練中に撮影した未確認飛行物体の映像。その動画の一部が此方
https://www.youtube.com/watch?v=2TumprpOwHY&ab_channel=ABCNews
モルダー、君の努力は遂に報われたよ”笑”。

2006年11月7日、シカゴのオヘア国際空港の上空に未確認飛行物体が出現。UFOを連想させる円盤型の物体は数分間に渡り上空をホバリングした後、西の空に飛び去った。謎の物体はパイロットを含む多くの利用客に目撃され、ニュースで大きく報じられたが、連邦航空局は気象現象と結論づけ、UFOを真っ向から否定。オヘア空港は、航空ファンなら御存知の通り、全米で屈指の巨大空港で7つの滑走路を有し、ユナイテッド航空とアメリカン航空のハブ(母港)でも有る。第2次大戦のエース・パイロットの名前オヘアが由来。

本作はこの実際に起きた「事件」をベースに作られたが、当時をPOV風にモキュメントする訳でも無く、エイリアンの侵略を描く訳でも無く、況してや政府の陰謀論を追及する訳でも無い。インテリジェンスを隠さない極めてユニークなアプローチが秀逸。

Ryan Eslinger監督は日本では全くの無名たが、Sharon Stone出演のスリラー「When a Man Falls in the Forest」、森で謎の人物に出会う人間ドラマ「Daniel and Abraham」海外のコンペで賞を取るなど、自ら脚本を書き製作会社に売り込むが、不思議と作品に結び付ける「縁」に恵まれてる。本作には絶対の自信が有り、SFに理解の有る20世紀フォックスに売り込む。FOXは「X-ファイル」を製作したスタジオだが、ディズニーから傘下に入る様、猛烈なラブコールを送られた頃で、レビュー済「アンダーウォーター」「リチャード・ジュエル」が製作中断を余儀なくされた程、タイミングが悪く断られてしまう。

メジャーで作った事が無い監督にはムリも無い。途方に暮れたが「エベレスト」のプロデューサーEvan Hayesの仲介で、ソニーとコンタクトの機会を得る。他のメジャーが採用しないのは、UFOの存在を肯定する作品にはスポンサーが付き難い、と言う理由も含まれる。ソニーはSFには中立だが、私は大好きだが皆さんの評価は最低のJulianne Moore主演「フォーガットン」を作った前科”笑”が有る。ソニーは劇場公開、ビデオスルー、TVムービーの3択から、ビデオスルーを提案。ビデオスルーは公開する劇場が無いから、こう呼ばれる訳で初めから公開しない前提で、劇場レベルの作品を作るのは珍しい。それだけソニーが脚本に惚れこみ「何とかしたい」と言う熱意が形に成った。

原題「UFO」なのにUFOが数秒しか登場しない奥床しさ。エイリアンは勿論登場し無い、派手なアクションシーンも無い。有るのは鉛筆と紙とスマホだけ、主人公は数学の知識を武器に地球外生命体の存在を証明すべく奮闘する。時を同じくしてFBIも事件の捜査に乗り出す、此方も物理学者が真相の究明に当たり、科学的知見で物語が展開する。秀逸なのは人里離れた場所では無く、ケンタッキー州シンシナティ・ノーザン国際空港を舞台に撮影が繰り広げられる為、都市伝説的陰謀論が入る余地がない、クレバーな脚本にインテリジェンスな薫りすら漂う。

ミステリーの謎解きにテイストが近く、同時に主人公の青春映画っぽいナイーブな雰囲気が混在する、2面性も持ち合わせる。演じるAlex Sharpは最新作「シカゴ7裁判」にも出演してる若手の注目株。設定は天才と狂気は紙一重、と言った形容が相応しいが、彼の演技力で不思議と肯定的に「青春だな」と受け留められる。カルダシェフ・スケールやアレシボ・メッセージと言った、その筋で無いと理解出来ない用語が連発するが、決して難しい映画では全然ナイ。私もFSC微細構造定数ぐらいは知ってるが、ビデオを友人に見せたが、若気てた”笑”。決してカッコつけて専門用語を羅列して無いのは京都大学の講師が保証します。

天才を受け止める教授がGillian Anderson!。52歳の今も若々しく「此の手のジャンルはお手の物よ」と見事な存在感を見せる。友人が持ってるテレ朝の吹き替えが戸田恵子さん(モルダー貴方疲れてるのよ、は名言)、ビデオが相沢恵子さんとややこしいが、彼女は声も魅力的なので、本作でもしっかり活かされてた。対するFBIのリーダー役David Strathairnも相変わらずの渋い演技で、並行する物語のラストでデレクと初めて会うシーンは本作のハイライト。最後まで物語を追った観客も短い会話だが、きっと感動するだろう。理詰めなストーリーに、しっかり人間模様も描かれる、ソニーが破格の条件(採算度外視)で製作した理由も頷ける。机上の企画会議では絶対に創られないだろう。

ビデオは北米で2018年9月4日にリリースされ同時配信、予告CMは6月24日「UFO記念日」に放送された。この日は「ケネス・アーノルド事件」と呼ばれ、未知の物体を「Flying Saucer」空飛ぶ円盤とマスコミが初めて報道した日。Gillian Andersonは「まだ地球外の謎を信じたい」と予告編で語る。ニクイね、SONY”笑”。

地に足がしっかり根付いたSFスリラーの佳作。貴方はUFOを目撃したら、どうするだろうか?。
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