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殺さない彼と死なない彼女のRenのレビュー・感想・評価

殺さない彼と死なない彼女(2019年製作の映画)
3.5
「漫画の実写化」ではなく「漫画」だと思った。福田雄一的な、リアリティフル無視であり得ないセットとあり得ないキャラクターで魅せる漫画っぽさではなく、現実の世界で人間が漫画の台詞で話すヘンな漫画っぽさ。新しい体験ではあった。

『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』のようなクセ強め設定ボーイミーツガールに見せかけた『君の膵臓をたべたい』(引き合いに出しておいて、どちらも映画未見。小説版のみ)。

想像以上に群像劇の体を為していたことにまず驚き。しかも横の繋がりがかなり薄いため、連作短編集といった味わいだった。
特に中盤の30分ほど、小坂(間宮祥太朗)と鹿野(桜井日奈子)が完全に本編から退場して、八千代(ゆうたろう)と撫子(箭内夢菜)の物語にシフトチェンジするのが思い切ったな〜と感じつつ、英断だとも思った。主人公2人よりも八千代と撫子のほうが好きだったので、彼らが主人公でも良かったくらい。彼らの一挙手一投足がむず痒くて淡くて甘い。今どきこんなピュアがあるかと恥ずかしくなるほどに 青春のあの頃の恋愛の「あぁ〜っ‼︎」ってなる部分を煮詰めたような好きが、然るべき場所に着地した謎の感動があった。
『花束みたいな恋をした』の、清原果耶&細田佳央太カップルのよう。作中の立ち位置からしても似ている。

映画としては、常に白いフィルターがかかっているような自然光撮影も儚さを感じて良かったが、徹底したエキストラの排除が特に特徴的だと思う。
通行人や客といった名前の無い出演者が、現実を舞台にした映画にしては極端に少ない。逆に言えば、スクリーンに登場する人は全員主人公達に何らかの影響を与えているキーパーソンだということになる。
これこそが小林監督が今作でやりたかったことだと感じた。四コマ漫画は基本的に主要キャラのみがコマに描かれる(普通の漫画よりも背景やディテールは省略されていることが多い)ため、前述の効果によって、今作の全てのカットが線で囲まれたコマのように見える。

コマに新キャラが描かれる違和感(枠線を突き破って何者かが侵入してくる違和感)と、日常生活で普段なら会わない人に出会したときの違和感が重なる快楽。映画的表現と4コマ漫画的表現が噛み合った瞬間にぞくっと震えた。

変なギャグを言ったり顔芸をしたりしてリアリティラインを下げるのではなく、徹底して不自然な台詞回しとエキストラの排除によって、漫画みたいな映画みたいな漫画にした発明。やりたいことが理解できた今なら、メインキャストに演技派の印象のある役者が少なかったことにも納得はできる。

【余談】金子大地のこういう役いいなぁ。『猿楽町で会いましょう』に繋がるハマり役。
【超余談】せっかくイクスピアリに行くのに映画館前現地集合はもったいないよ!見所いっぱいあるよ!
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