blacknessfall

国家が破産する日のblacknessfallのレビュー・感想・評価

国家が破産する日(2018年製作の映画)
4.2
1997年の韓国通貨危機からIMF介入の史実ベースにした社会派映画。
当時、そんなことがあったのは知ってるけどそれが韓国にどんな変化をもたらし、どんな意味を持つものだったのかは知らなかった。それがいやと言うほど伝わってくる映画なんで観てよかった笑

韓国銀行、通貨政策チーム長ハン・シヒョンは好調と思われていた経済が近いうちに破綻することをデータから割り出す。
その危機について政府官僚と会議の日には国家破産まで一週間と迫っていた。
この危機を国民に知らせて少しでも被害を減らすことを提案するハンだったが、「不安を煽り混乱を招くだけだ」と政府高官に情報公開を拒否される。

同じ頃、ある金融会社の経営コンサルタントは手形の不渡りが続発、生活苦に落ちた人が増えていることを耳にする。
経済の破綻、通貨危機を予測しドル買いに走り一山当てようとする。

そして、同じ頃、小さな町工場の社長はデパートへの大量納品の大口取引を手形払いで引き受けた。後日手形は不渡りになり、工場存続の危機に…

物語は主に上記の三人の視点から画かれる。
国家の中枢で国民を守ろうとする公務員。
通貨危機を利用し儲けようとする男。
通貨危機に翻弄され生活を壊される男。

各々の立場から通貨危機を画くので、上から下まで事態を包括的に立体的に観れる。硬質で上質なドキュメンタリーのように当時どんなことがそこで起こってたかが分かる。

話のクライマックスは通貨危機脱出のためIMFとの救済策を合議する場面。
そもそもハン通貨対策チーム長はIMFに頼ること自体反対だったんだけど、これも政府高官に押し切られるてしまってる。
何故IMFに反対なのかと言うと、IMFは支援の条件で外資参入の規制緩和、労働市場の開放を求めてるから。要するに新自由主義化ってこと、これを導入すると我が国でも明らかなように企業は容易に従業員の解雇ができるようになり、労働者の立場は不安定で弱くなる。
映画の中でもハン通貨対策チーム長がハッキリ言ってるんだけど「富める者がより富み、貧しき者がさらに貧しくなる社会になる」だからIMFと交渉を中止すべきだと。

しかしハンの奮闘もむなしく韓国はIMFの条件のみIMFの支援の元、新自由主義経済に舵を切ることになる。
しかし、他の官僚達は何故、外資に参入されやすく労働者を苦境に追い込む方を選んだのか?
それは簡単で市場経済自体は大資本だけ延命すれば立て直すことができるし、資産を持つ人間だけ守れば金は回る。それに労働者に力を持たせると賃上げや社会保障に予算とリソースを割けなればいけない。そんなことは死んでもいやだから、富める者と貧しき者に圧倒的な格差を作り階層を固定化し階級社会を作ってしまえということ。
ここのくだりの感想で「やっぱり韓国はヤバい国だ!日本と違って」的なこと言ってる方がいたけど、官僚が権力者と財界のためだけに動くのは日本も大差ないし何ならもっとひどいかもよ。
そもそもこういう映画が作られるのは事実が公文書に記録され公開されてるからであって、日本みたいに公文書破棄したり改竄したりする国じゃ作れないじゃん笑

新自由主義が入り込むポイントがどの国にもあって、韓国はここだったんだなと思った。日本の場合はバブル崩壊なのかな?
だから、この映画みたいの日本でも撮れるんだけど、今の日本でここまでがっつり自国の経済政策を批判し新自由主義反対を唱える映画を撮れる土壌もないし、そんな監督も居なそうだから無理だろうな、っていつも韓国映画の社会派作品観る度に言ってる気がする笑

それとIMFの代表がヴァンサン・カッセルだった。何のオーラもなかったから最初分からなかったよ笑
blacknessfall

blacknessfall