Bigs

国家が破産する日のBigsのネタバレレビュー・内容・結末

国家が破産する日(2018年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

これから生きていくのが怖くなる。それくらいドスンとくる映画でした。

貧困について、その生活を強いられる人々の側から描いた映画は山のようにあるけど、それを作る側・搾取しようとする側の視点も入っているのが凄いと思った。日本の将来を予見するよう。

ここ十数年の世界経済・政治の動きから漠然と感じていた恐ろしさ、為政者や富裕層が如何にして自らの利益を追求していくか、そのとき自分のような一般市民はどんな末路を辿っていくか、それをまざまざと見せつけられた。
要は、僅かな富裕層がその他の一般人から財(有形・無形とも)を搾り取れるような社会構造が顕著になっていく。これからは、良き市民として"真っ当に"生きる人が苦しめられる世の中になっていくんじゃないのか(既にそういう局面に突入してる気も)。そんでもって、そんな世界で生き残っていくのは馬鹿で下劣な金持ち達。
そして、国単位の階層構造もより明確化するのでは。具体的には超大国=アメリカが韓国や日本を搾取する。搾取される側の国の人間が何故その要求を飲むかといったら、一部の人間にとってはその方が自分の利益が増え都合が良いから。

財が搾り取られるだけじゃない、社会保障等の福祉やインフラも民営化、食品や医薬品・化学物質の規制も自国じゃ制御できなくなって、社会基盤の崩壊や著しい健康被害も発生する可能性がある。本作ではその一例として外国資本への市場開放が示されていた。日米FTAもその一つだろう。

一方で、語りもめちゃくちゃ上手くて、エンタメとしても十二分に面白い。
韓国での通貨危機からIMFによる融資までについて、庶民や零細企業が犠牲となる最悪のシナリオを回避しようとする韓国銀行 通貨政策チームを軸に描く。
ストーリーは3本のラインから成る。①IMF介入を回避しようとする韓国銀行通貨政策チームと、対立する韓国政府(財務局)、そして交渉に入るIMFの一団。②デフォルトを予期し、それを機に儲けようとする金融コンサルタントと資本家。③デフォルトの煽りを受ける一般の工場経営者と家族。
交差しない(ラストにある血縁関係がわかるが)3本のストーリーを巧みにさばき、ともすれば難しい題材なのに、観客を混乱させずにわかりやすく面白く見せる。すごい手腕。

以下雑感。
・韓国のトップ企業が相次いで経営破綻、そんなことが本当にあったのかと目を疑った。キアもこの時期にヒュンダイ傘下になったのか。
・はじめに工場でラジオが流れていて、報道だったのをこっちの方が良いと音楽番組に変える。難しいし、自分には関係ないことだからと耳を塞ぐ行動にも一因があるとの描き方(もちろんその責任を市民に転嫁するものではないが)。
それと呼応するようなラストのセリフ、「私は目を見開いて監視する、もう騙されたくないから」
・はじめにメールを打つ場所がモルガンスタンレー。一連のアジア通貨危機が投機筋によるマネーゲームであると匂わす。
・大統領の機嫌が悪いとか、簡単に説明しろ、数字を使うなとか。こういう元首になると国の崩壊が始まっていくんだな。
・ユ・アイン演じる金融コンサルタントはこの事態で儲けながらも、間近で国の崩壊を目撃する。事が終わった後の愚かな国を蔑むような物悲しい視線。
・チョ・ウジン演じる財務局次官。この事態を好機と捉え、ハーバードのコネも利用しながら、IMF介入を実現していく。そして20年後は投資銀行のトップ。労働運動を目の敵にしており、彼は「物言わず働き、言いなりになる奴隷が欲しい」という思想であることが明らか。こういう考えがこの映画の悲劇的な事態を引き起こしており、また現実もこんな考えが横行しているように思う。意識的にあからさまな女性蔑視発言をしてかき乱すのも嫌な話術。
Bigs

Bigs