足拭き猫

彼らは生きていた/ゼイ・シャル・ノット・グロウ・オールドの足拭き猫のレビュー・感想・評価

4.0
年配の方から昔の白黒記録映像は見づらいからカラーの方が良いと聞いたことがあるが、これを観てなるほど、と。情報量が少ない荒い映像から想像できることが限られていて、年を取るとそれを補うことに疲れてしまうのだろう。
この作品は単に着色されているだけでなく、手回しカメラゆえに生じるバラバラのコマ数を一律秒24コマにする補完、自然な空間の広がりを感じさせるための立体視(3D)化、無音映像の人物の口元を読み取って兵士のセリフをアテレコなどなど膨大な作業の末に出来ている。死体の映像や画像がたくさん出てくるが、これを着色したスタッフのメンタルは大丈夫だったんだろうか。作り手の執念を感じた。疑問として、4:3から横長画面への変換はどのように行ったのか?

2200時間に及ぶ映像とBBCが保管していた約300人の退役軍人の音声による証言が元となっており、そのような記録を残す戦争博物館もあるらしい。短い証言をつなげているから余計そう思うのだが、ある退役軍人は思い出を楽しそうに語り、ある人は悲惨な光景を淡々としゃべり、皆が饒舌だ。日本人だったらここまで具体的に証言をしないのだろうなぁ。

苦しい毎日の現状を打破したくて戦争に行けば何かが変わるかもと期待を抱き、申し込みをするために若者が我先にと建物に入っていく。しかし現場は泥と氷水の不衛生な塹壕の中での戦い。大勢の19歳未満の少年が年齢を偽って現場にいき、緊張に満ちた日々を過ごす。2時間戦い4時間は休むというローテーションになっていたのは体力が持たないからなのだろう。
第一次世界大戦は1918年に終わっているが、終戦の原因のひとつとしてその年にスペイン風邪が大流行し、前線にいた兵隊が大勢亡くなり疲弊してしまったからというのを後から聞いた。ドイツ兵が捕虜になってホッとした表情になり、イギリス兵とお互いにくだらない戦争だったねと話し合ったというが、イギリス兵が母国に帰り、「あんた一体どこに行ってたんだい?」と近所が無関心だったり、就職差別にあったりというのはいつの時代も変わらないのだな。