なべ

彼らは生きていた/ゼイ・シャル・ノット・グロウ・オールドのなべのレビュー・感想・評価

2.0
コロナの影響で土日はどこも映画なんてやってないと思ったら、一部の劇場が営業してた。大きなスクリーンに飢えてたので観てきた。10名足らずの観客でな!

ふーむ…
これ、映画じゃないよね。
ドキュメンタリーでもない。
予告編を見たときは、てっきり戦争博物館やBBCのアーカイブに眠っていた戦場の密着ドキュメンタリーなのかと思ってた。ちゃんと対象者がいて、彼の目を通して戦争の日々を追っているのだと。反戦なのか戦意高揚のプロパガンダなのか、なんらかの目的がある映像だと。
ただの記録映像の寄せ集めじゃないか。そこに技術的加工を施して、戦争体験者の感想をバックに流した、それ以上でも以下でもない作品。そもそもこれを作品と呼んでいいのか? 趣味の映像じゃんか。

作風は、DVDの特典で監督や出演者が背景で延々と喋るあの感じ。どれほど感動的な作品でも、音声トラックを切り替えたとたん、映像のチカラが無力化されるあの感じよ!
だいたいウルトラQが全話カラーで観られる時代にあって、記録映像に色をつけたくらいではもう驚けないわな。フレームレートや陰影の補正も同様。色がついた瞬間はおっ!と思ったけど10分もすれば慣れてしまった。そう技術的な興奮って持続しないのよ。これならNHKスペシャルの「カラーでよみがえる東京」の方がなんぼかおもしろかった。
じゃあ内容が素晴らしいかというと、これも全然でさ。語られるのは爺さんたちの感想だ。話はどれも見知ったものばかりでほとんど新鮮味はない(最初の方にあった白い羽の御婦人の話はちょっと毒があってよかったけど)。そりゃ著名な脚本家のセリフじゃないんだから当然といえば当然だよね。

本作から戦争の生々しさを読み取って感動している猛者もいるが、ぼくはめっちゃ退屈した。そりゃそうだ、才能あふれる監督が撮ってるわけでもないし、感情移入できる主人公もいないんだもの。何度も眠くなったよ。
そもそもが戦争の狂気を告発するような深遠さは皆無で、爆弾で手足が吹っ飛ぶ映像もなけりゃ、飛び出るはらわたを押さえて助けを求める兵士も出てこない。きっと生の殺し合いは撮らないのが当時のカメラマンの志だったのだろう。

ぼくがここから得たものは戦場に彼らがいたという事実くらい。けど、それはこの映画を見なくてもリアリティをもって想像できるし、なんならもっと悲惨な情景さえ脳内再生できる。

この作品で戦争の無意味さを知れた?
ご冗談を。この作品を見なくたってそんなことはわかる。もしかしてこれを見るまで戦争の無意味さを知らなかった? そんな奴はいないでしょ。もしそれを知るためにこの作品に行き着いたのなら、残念としかいいようがない。もし戦争の無意味さをこの映画によって初めて得たのだとしたら、その人の生き方に…いや、みなまで言うまい。

戦争の悲惨さを知れた?
壊疽した体の部位や戦死者の写真などネットに腐るほどある。そうしたグロな報道写真専門のサイトさえあるくらいだ。お望みならこの映画よりもっと生々しくて、冷徹に死を捉えた揺るぎないジャーナリズムに震えることだってできるのだ。今の現実はここで描かれた風景としての死体よりもっと悲惨だ。

これは一体誰の視点なの?と絶えず奇妙な違和感が付きまとうし、ところどころ静止画を動かしているような部分動画なカットも、戦争とは別の意味で気持ち悪かった。
つまりは全編「知らんがな」の連続。高評価な方々と争う気は全くないが、ぼくにとってはまるごとどうでもいい映画だった。
ピーター・ジャクソンがおじいちゃんを思ってつくったのはわかるが、ぼくにはこれっぽっちも響かなかった。彼はギャラなしだったらしいが、だってこれは彼の趣味の一本だもの。
久しぶりの映画なのに映画ならではの高揚感も刺激も味わえず、とても残念な鑑賞となってしまった。

おっと、エンドロールの歌はちょっとよかったかな。これは終わってからもしばらく脳内で鳴り止まなかったよ。
なべ

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