なべ

レザボア・ドッグス デジタルリマスター版のなべのレビュー・感想・評価

4.0
 当時、サンダンス映画祭で配給会社が目の色を変えたって雑誌の記事がきっかけでレンタルして観たのだが、まあイキのよさにぶっ飛んだ。
 簡素なストーリーにアドリブのような駄台詞、どこかで見たような大胆なキメ絵に、イカしたキャスティング。そして激シブの懐メロ劇伴。とにかくエネルギッシュな才能がグツグツと煮えたぎってた。
 名作へのリスペクト?いやいやパクリですわ。剽窃。あまりにあけすけ過ぎて、「え、パクってるよ。だから何? あんたも好きだろ?」と逆ギレされそうな品のなさ。とにかく手癖が悪いんだが、映画学校で学んだ行儀のいい監督には絶対マネできない、映画オタクによる高らかなB級讃歌がそれはもう心地よくて。
 当時、誰からも受け入れられなかった持論を改めて言おう、“タランティーノはギャルである!”と。大人のいうことなんかまったく気にせず、好きなファッション、好きなメイクで、屈託なく独自のスタイルを貫くギャルの生き様。同じじゃないか!マインドがギャルと同じじゃないか!
 聞けばレンタルビデオ屋の店員だったらしく、なるほどアカデミックな若手監督ができないあからさまな盗みはそういう出自のせいかと妙に納得したのを覚えている。教養じゃなくて体験の成せる技。ドブ板の裏から這い出てきたような粗野で下品な作風が、街のチンピラのクライムサスペンスと馴染みすぎる!
 ストーリーはなきに等しい。物語は線ではなく、断面だけが提示される。実際の銀行強盗シーンは一切見せず、ほぼ倉庫の中だけで詳細が語られるという、予算のないのをどうにかして作品にしたアイディア作品。
 登場人物の背景は日常会話で掘り下げられ、犯罪者の思考や偏見、行動様式などがチュートリアルなしでひとりでに理解できてるという見事なやり口に舌を巻く。ザックリいうとノリで一気に突っ走るのよ。
 いきなり始まるライク・ア・バージンの歌詞の解釈。どうでもいい蘊蓄なのに、観客の興味を瞬時に奪い、無教養で我の強いクズどものリアルをイキイキと描いてみせる。こんなツカミ、今まであったっけ?
 ユーミンが荒井由美から松任谷由美に変わった頃、喫茶店で交わされる会話を盗み聞きして、時代と風俗を曲づくりに反映していたのと同じ理屈が、タランティーノ作品にはある。共感を呼ぶホンモノのリアリティ。
 色分けされた銀行強盗のメンバーは、そのまま「華麗なる賭け」の設定だし、潜入捜査官との友情はほぼ「友は風の彼方に」だ。
 実際、盗作疑惑スキャンダルも出たのだが、本人が、「パクリで映画をつくってる」と堂々と認めたもんだから、なら仕方がないとお咎めなしになったのは笑った。
 この後、レザボアドッグスでのやり口はさらに洗練され、パルプ・フィクションに繋がるという流れがとても美しい。
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