APO

ホテル・ムンバイのAPOのレビュー・感想・評価

ホテル・ムンバイ(2018年製作の映画)
4.3

鑑賞を楽しみにしている作品に対し、中々容易に手が出せない変わった性分であることを先ず認める。様々な要因によって恐らく私的好みに突き刺さっているであろう作品ほど、満を持して触れたい。ここぞという時を言葉で説明するのは到底不可能に近いので控える。
が、本作がまさに此れ。


"Based on the TRUE story"

2008年11月、インドは西海岸にある大都市ムンバイで同時多発テロが勃発する。複数地でテロリストによる無差別殺人が横行される中、本作舞台は五つ星高級ホテル「タージマハル・ホテル」。突然のテロリストによる占拠に対し、一流ホテルスタッフ達と宿泊客がどう立ち向かうのか。緊張の渦に巻き込まれること不可避でリアルな映像。後世に残さねばならない傑作ノンフィクションフィルム。


同じ題材で
『Taj Mahal (パレス・ダウン)』 2015
『ONE LESS GOD (ジェノサイド・ホテル)』 2017
があり、こちら二つも気になる。


(以下ネタバレ含む)




ボートでテロリスト集団が上陸する冒頭シーンから終始、眉間にシワを寄せ、手に汗握りっぱなしの状態だった。彼等が犯行に及ぶのだとすぐに分かり、緊張感のベースを一番最初から観る側に保たせる。謂わば本作の基盤となる恐ろしい雰囲気が一気に冒頭から充満する。

本作は現実に起こったテロを基に作られたので、当然ながら超人的なスーパーヒーローがその秀でた能力を武器に活躍するような所謂アクション映画とは全く違う。実際の事件を細かく調査して作られたリアルに基づく作品。
非情にも次々と全く罪の無い逃げ惑う人々が銃殺されていく、胸が痛い描写も多々ある。救えなかった命、実際に落としてしまった命の多さを痛感する。
当ホテルでは "お客様は神様" と教えられ、何があってもお客様ファーストの信念が従業員にしっかり根付いていた。
ホテルレストランの料理長オベロイ(アヌパム・カー)が、ホテルを占拠され取り残されたお客様達を安全な場所へ誘導する際に、一流たる所以が見受けられた。家族を持つ従業員に対し、この命に関わるケースを考慮し、帰るか残るかを各々に選択させ、どちらの選択をしたにせよ、その者に敬意を払った。このような異常な状況下でこそ、人の人間性が露わになる。

アルジュン(デヴ・パテル)がホテル内で、彼の頭に巻くターバンと顎髭に対して恐怖心を抱く高齢白人女性をなだめるシーンは印象的。彼はシーク教徒であり、頭に巻くものはパグリーといい、高潔さと勇気の象徴であると丁寧に説明する。知らないことや他宗教のことなどに対し、あの状況下では混乱しやすいのかもしれない。それを避けるのでは無く寄り添い、理解してもらおうとするアルジュンの行動は賛同を得るのは必然のように思う。


テロリスト集団はパキスタンのイスラム過激派に属する者達。信仰宗教を強く胸に抱き、首謀者により謂わば洗脳されている状態と言っていい。テロの犯行に及んだ若者達も家族を養うため、お金のために行動した背景が説かれていた。
「AFPBB NEWS」によると、2019年7月に首謀者である容疑者を逮捕したとパキスタン当局は発表している。


暫く余韻に浸らざるを得ない。

テロ実行犯の若者達も元々は罪の無い少年たち。産まれてきた時点で罪のある人間などいないが、この首謀者は過激的な思想にとらわれ、"悪"に満ちた。負の連鎖からのテロリズムであろうが、若者達を操り実行に至る今回のやり方、これが通常なのかもしれないが、胸糞悪過ぎる。
何よりも偶然に巻き込まれてしまった人間達。想像しきれない恐怖で一杯である模様が伝わってきた。

世界ではいつ何が起こるか分からない。
腐る程聞いた言葉だが、ネガティヴな意味でのこの言葉が実際に同じ星で起こったのだと知ることの重要さは計り知れない。
ここ日本でもいつ何が起こるか分からない。
平和ボケしてる、なんて言葉だけ交わして無頓着な状態でいる人達がどれだけいるだろうか。
気にし過ぎて怯えながら生活することが最善では全くないが、世界情勢にしっかりと目を向け、細やかながら頭に入れて生きることがベターな気がする。
と、私自身に言い聞かせる次第です。
APO

APO