ヨーク

ジョジョ・ラビットのヨークのレビュー・感想・評価

ジョジョ・ラビット(2019年製作の映画)
4.0
めっちゃ面白かったんですけど、俺はこの映画に関しては事前にスカヨハが出ているということしか知らなくてそれ以外には興味なかったんですね。まぁスカヨハ好きなんで彼女が出てればそれだけで観る理由になるんだけれど、とりあえず映画館に行く前に自宅で予告編を見てみたら、何かがっかりした。またこういうのかと思ってがっかりした。でも本編を観ればその印象も変わるかと思ったんだけれど、結果としてはあまり変わらずに俺が落胆した部分は観劇後も落胆のままでした。
何がそんなに気に食わなかったのかというと、一言で言えばまたナチスかということですよ。ここは大事なことなのでちゃんと書いておくが、別にナチスを悪役にした映画はうんざりだからもういいよと言いたいわけではない(ちょっとうんざりしてるが)。それはいいんですよ。ナチスの行いと彼らに権力を与えた当時のドイツ人民のことは歴史的な事実としても作り話的な創作としても語り継ぐべきだと思うし。だけどこの映画の核は別にそこではないと思うんですよ。個人的にこの物語のテーマとしては国家が戦争状態にあるときに、その戦争に対してプロパガンダ的な戦争賛美が行われることの愚かしさや危険さを描いたものだと思う。だったらだよ、別にナチスじゃなくてもいいじゃん、と思うんですよ。
本作はアメリカ映画です。監督はニュージーランド人だけどアメリカの資本で製作されて舞台はドイツなのに英語のセリフが飛び交うアメリカの映画だ。別にアメリカ映画でナチスをモチーフにしたっていいんだけどさ、なんか逃げてるというかへっぴり腰というか日和ってんじゃねぇかなという気はするんですよ。どうせヨーロッパの出来事だからとどこか他人事な気さえする。アメリカという国が本当に戦争下におけるプロパガンダ宣伝の愚かしさを描くのならば、主人公はファッキンジャップが心情の少年だがリトル・トーキョーの少女と出会う物語でも描いてみろよと思うんですよ。今の若いアメリカ人の一体何割くらいが前大戦中に日系人を収容所に叩きこんでいたことを知ってるんでしょうね。多分結構少ないんじゃないかなと思いますよ。自分たちの本当に後ろ暗い歴史を掘り起こして問題にしようなんてこれっぽっちも思ってないんですよ。別に俺が日本人だから日本に原爆落としてごめんねって言ってほしいわけじゃない。何なら9・11の直後にニューヨークでアラブ系の少女と出会う少年の物語でもいいですよ。そういうの撮ってみろよと思うんですよ(多分俺が知らないだけであるんだろうけど)。だってナチスを悪役にしてその排外主義を批判対象にしてもそんなの誰からも文句言われないじゃん。ナチスなんてすでに歴史的な悪として落款を押されてるような存在なんだから。現在のアメリカとヨーロッパとイスラエルの全部で政治体制が真逆に変わるような革命でも起きない限りは創作でナチスが善玉として描かれることはないですよ。そしてそんなことはそうそう起こらないだろう。そういう安全圏で本作のようなブラックジョークが主体の映画を撮ってもあんまり効果ないと思うんですよね。と、ここまで書いていて思い出したけどやはり『バイオショック・インフィニット』のアメリカ批判は真に迫っていたなと思います。
と、まぁ以上が俺の本作に対する気に食わない部分。正直作品そのものよりもハリウッドの映画製作に対する姿勢という部分が大きいと思うけど。
じゃあ映画としてどうだったのかといえば一番最初に書いたようにめっちゃ面白かった。あの二通目の手紙のシーンとかめちゃくちゃいいですよね。ユダヤ人の生態ノートも面白いしそこに書かれている名前でニヤニヤしてしまう。いわゆるおねショタものとしても非常に優秀で、少年とお姉さんの交友が素晴らしいですね。あと、基本的にブラックジョークで誤魔化しながらもやはり物語の主題的には重い映画ではあるのだがスカヨハの存在のおかげで重くなりすぎなくてよい感じでした。スカヨハがワイン片手に小躍りするだけで何か救われた気分になる。
そしてあのラストシーンですよ。あんなん泣くって。正確に言えば落涙まではいかずに半泣きで耐えたけど、あのラストシーンは本当に素晴らしい。役者の表情と身振りと腰振りと、そしてエンディングの曲。本当に素晴らしい。単に俺がデヴィッド・ボウイ大好きということもあるが。
I, I can remember
Standing, by the wall
And the guns, shot above our heads
And we kissed, as though nothing could fall
作中で流れたのは多分ドイツ語版だと思うが、この映画のラストにこの歌詞は泣くだろ。ちなみにボウイファンなら周知の事実だが本作のED曲が収録された『Heroes』というアルバムは東西分裂時代のベルリンで録音されたものだ。散々上の方で文句を書いたがその点だけはナチスをモチーフにした意味が少しはあるよなと思う。
いい映画でした。
ヨーク

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