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スウィング・キッズのblacknessfallのレビュー・感想・評価

スウィング・キッズ(2018年製作の映画)
4.1
1951年朝鮮戦争中、最大規模の巨済島捕虜収容所。新しく赴任してきた所長は収容所の対外的イメージアップのため、戦争捕虜でダンスチームを結成するプロジェクトを計画する。(あらすじより)

軍人、捕虜、民間人が立場を越えタップダンスを通して心の交流をするハートフル・コメディ。
『フルモンティー』や『シャル・ウィ・ダンス?』を思わせる軽妙なコメディタッチで展開するんだけど、韓国映画なんで話はそんなに甘くない。
時代の歪み、越えられない立場の違い、戦争によって家族や生活を奪われた人達の慟哭、哀切をこれでもかとばかりに叩きつけてくる。

主人公は北朝鮮の軍人の捕虜で愛国心と反米感情の塊だからダンスの師である米軍の軍曹に強い反発がある。それでもダンスの魅力に目覚め葛藤しながらも段々と軍曹の誠実な人柄に触れ徐々に信頼関係を築いていく。
他のダンスチームのメンバーの民間人の女性、中国人捕虜、軍人と間違われ捕虜にされた北朝鮮人、最初はそれぞれの打算からチームに加わるもやはりダンスの魅力に魅せられていく。
前半は本当にハートフル・コメディの王道な展開でハッピーエンドを予感させる感じで進む。

それが収容所でクーデターを起こすためにわざと捕虜になった北朝鮮の工作員が登場してから話はドンドン不穏な流れ。
捕虜内で反米か親米かで分断が起こる。破壊工作に参加しない捕虜は粛正される。
戦場で反米の闘志としてならした主人公にも米兵殺害の指令が。もはや同じ人として理解してる米兵を殺すなんてできない。
不穏な空気に包まれる収容所、民間人の女性も出入り禁止されダンスチームは解体の危機に。

ここからダンスチーム再結集に向けて軍曹が奮闘する。この軍曹も黒人、当時は差別される対象。実際白人の部下に命令すると「ここ(軍隊)ではニガーでも上官の命令は絶対だからな」と悪態をつかれる。
米軍内にも深い分断がある。

この映画が凄いのは舞台はほとんど収容所内だけなんだけど、そこでの人間模様がそのまま、当時の朝鮮半島、アメリカを表しているところ。
イデオロギーと大国の思惑で同じ民族同士で争う捕虜、戦争に翻弄される民間人、人種差別が蔓延する米軍。
この収容所内で起きてる悲劇は間違いなく当時、収容所外でも起こってたこと。

黒人の軍曹はタップダンサーだった。間違われて捕虜にされて男は妻と生き別れた。民間人の女性は幼い兄妹を養うために慰安婦に、主人公も戦争がなければもっと早くダンスの才能を見いだされたかも知れない。
全員、戦争によって夢や平穏な暮しを奪われた人達なんだよ。

そんな主人公達の背景が分かった上で見ると収容所のクリスマスパーティーでの彼等のタップダンスは感動的で胸が熱くなる。撮り方もうまくて、個々の個性やタップダンスの魅力をこれでもかとばかりに引き出してた。
色々悲惨な時代だけどこういうハートフルなエピソードもあったのかも、と思わせて終る。ほど、やはり韓国映画は甘くない。
この後、政治と戦争によって引き起こされた時代の歪みの前ではダンスなぞ無力だという現実を見せつける衝撃的なバッドエンドが待ってる。

正直、ここまでバッドエンドにすることないんじゃないかと思ったけど、このラストがあるからこの映画はずっと自分の中に残ると思った。
反戦映画としては正解だよ、安易なものではないと刻みつけられる。

しかし、韓国映画は自国の闇や恥部を美化することなく画き極上のエンタメ映画を量産してて凄い。畏敬の念を感じるよ。
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