どいたま

天気の子のどいたまのレビュー・感想・評価

天気の子(2019年製作の映画)
4.0
『君の名は。』について、私はこう思っています。
「主人公もヒロインもその他みんなも幸せになるオチなんて、新海誠らしくない!」

もちろん、『君の名は。』は新海誠作品の中で最も完成度の高い作品だと思っています。だからこそ、あれ程までのヒットを呼んだのでしょう。それでも上記の理由から、この作品のことをどうしても好きになることができなかったのです。(ひねくれた感想なのは承知していますが…)

それに対して本作は、新海誠作品の従来からの作風である、「主人公とヒロインの強いつながり」にしっかりとフォーカスを当てています。その分、その2人以外の人々は「不幸」になる部分もありますが、そんな事はおかまいなしです。
この、典型的な<セカイ系>の作風に振り切った展開となる本作は、私の中の新海誠作品のイメージとぴったりと合っており、とても嬉しい気持ちになりました。
大事なのは、主人公とヒロインの物語なのです。それ以外は2人の物語を彩るアクセントでしかないのです。

この分、『君の名は。』よりも人を選ぶ作品になっている事は間違いありません。
それでも、あの大ヒット作品の直後に、これだけ人を選ぶ作品を制作できるチャレンジ精神に、むしろ好感を持ちました。

また、『君の名は。』では曖昧な説明で濁されていた、「主人公orヒロインが超常的な能力を使える理由」「なぜこの2人なのか」という根拠がしっかりと描かれている点、前作よりも優れていると思います。
(前作の主人公やヒロインをわざとらしく再登場させる所は、少し寒いと感じてしまいましたが…)

それと、素晴らしい背景美術について、その演出の幅も広がっているなと感じました。
雨がしとしと降っているシーンは固定カメラアングルでの静止画が多いです。それに対して、雲が晴れて世界が明るくなるシーンでは、ヒロインを中心としてカメラアングルが回り出す動きのあるシーンとなっています。この背景美術を使った静と動の対比が見事でした。
晴れの瞬間に世界が文字通り<広がった>ように感じられるこの演出のおかげで、主人公やヒロインの心に寄り添いやすくなっている点見事です。

ツッコミどころについては、キリがない程あります。

特に気になったのは、<異常気象>という現実の問題について、その原因を本作が1人の少女に帰結させてしまっている点です。現実問題、異常気象については、人間が産業革命以来放出し続けている温室効果ガスが原因であるとの見方が強いです。人類皆の責任であるはずが、作品内ルールでは問題の責任を1人の少女に負わせています。
また、それに対する<少し大人な目線>のエクスキューズとして、
「天気なんて数万年の歴史の中で何度も変わってきてるんだから、もともと狂ってるんだよ」
というような表現が用いられています。これはこれで最もそうに聞こえる点も問題です。
現実の異常気象の原因が、「100%温室効果ガスだ」という事は実証されていませんが、「温室効果ガスが原因ではない」という実証は、それはそれで全くされていません。
作品内ルールとしては良いですが、現実問題を考える時にこの意見を提示するのは、非科学的です。データがなく裏付けの取れない理論は、科学的に実証できるものではありませんので。
特に、この映画のメインターゲットであろう10代の方々がこの意見を鵜呑みにすることがないか、心配になりました。
これらの「天気」に対する作品内ルールの描かれ方により、現実で考えるべき様々な問題を曇らせる事にならないか、という懸念を抱いています。


それでも、本作は本来の新海誠らしい、純度の高いボーイミーツガール映画でした。その点が好みです。
どいたま

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