Ren

ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネスのRenのレビュー・感想・評価

3.5
『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』でMCUのことを何も信用しなくなったので観る気が無かったのだけど、友人に誘われたので劇場で観てきました。ホラーと言うほど怖くはないけど、しっかりサム・ライミであった。ちゃんと面白かった!満足!

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はじめに
○ 色々言われているけど、実際のところ、今作のために『ワンダヴィジョン』未見の人がわざわざ予習する必要は無いと私は思いました(個人的に『ワンダヴィジョン』にハマれず、というか4話辺りの某ネタバラシ以降どんどん熱が冷めていってしまったためあまり好きな作品ではなく、オススメしづらいということもあるけど)。気になる人は観てね。
○ ちゃんと初見さんにも優しい作り。でも今作の感想として「予習しろ」「予習しなきゃ」といった感想が散見される辺り、世間ではまだまだ 全ての小ネタを楽しまないといけないというサプライズ史上主義な考え方が根強いのかも。自分は『ホワット・イフ...?』と「X-MEN」シリーズは未見だけどマジで関係無かった。
○ ネタバレ要素も特に無し。『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(以下、NWH)のときギャーギャー騒がれていた居心地の悪さも無いので、気楽に観てください!
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ぐわーっと迫るカメラワーク、静寂からのジャンプスケア。禁断の書物、霊、封印、ぐちゃっ、ぶすっ、扉バタンバタン。「製作費いっぱいくれてサンキュ、これで『スペル』作るわ」のノリ。
一方で、複雑なマルチバースを迷子にならないよう説明し見せてくれた脚本の整理力も褒めポイント。今まで漠然と脳内に抱いていたマルチバース構造がそのままスクリーンに映し出された気持ちよさ!
NWHのときは何故かトビーとアンドリューとトムホの3つの世界しかなかったマルチバースだけど、いや本来こういうものですよね?という納得感。

そして来年のアカデミー視覚効果賞ノミネートの可能性は高そう。『アバター ~』があるから受賞は無理だけど....。
そもそもストレンジとワンダという、フェーズ3までの時点で特に戦闘力がカンストしていた2人によるアクションなので迫力が無いわけが無く、その圧倒的にハイカロリーな演出だけで楽しめました。
「強えやつがいっぱい居れば面白え」というMCUの根源的な興奮を思い出したような。

ことマルチバースの使い方に関してはNWHのときは稚拙だなぁと思っていたのだけど、今作では「ファンサービス特化型」ではなく「自分の救済/自分の自分によるセラピー」「あなたの幸せとは?」という、思想的に納得できる普遍的な方向へ働かせていたのが偉いと思いました。予習した人/知識のある人だけ楽しめ、というNWHのような暴力的ファンムービーになっていないだけで偉い。
でもマルチバースという構造そのものが意味を持たせるという点ではNWHと今作でやり尽くしてしまった感。そろそろフェーズ4も何らかの形で収束させていかないとしんどいんじゃないかな....。

ストレンジが登場するとやはり映画の質感が劇場版ドラえもんのようになるのだなぁとも思いました。主人公だし重要な局面で助けてはくれるけど、基本的には彼の周辺人物の戦い/成長に比重が傾く。今作はどうやったってワンダ=スカーレット・ウィッチとアメリカの話。
というか、かなり意図的に “女性“ の戦い=男性の退場 が強調されていた気がします。つまるところ今作は、世界一イカれた “母“ の話でもある。

フェーズ3まで、なんかうじうじやってるわと冷めた目で見てしまいあまり好きになれなかったワンダ。今作くらいやってくれたら逆に良い。00年代以降の「ヒーローとは喪失感を抱え/悩み/葛藤する存在である」という価値観が振り切ってしまった成れの果てが、彼女なのではないか。

その他、
○ 終盤のバトルは、今作のルールを踏まえた上での意外な展開で面白かったです。ルックもサム・ライミ濃縮還元って感じで満足。
○ 個人的には、シリーズものでない別映画やDisney+限定配信コンテンツ を劇場映画と繋げていくのは反対です。今作でやっとそこに疑問を呈する人が増えてきた印象。皆んなNWHを何のエクスキューズも無しにすげーすげーと絶賛し過ぎだから。FilmarksやTwitterで、今作をそういう意味で低評価しているけどNWHは高評価している人を見けかる度に面白くなってしまう。
○ MCUというコンテンツが「ファンに媚びて新規を振り落とし縮小へ向かうことへの危惧」に関しては下記リンク先のレビューでびっしり書いています。

『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』レビュー
https://filmarks.com/movies/86717/reviews/126600223



《⚠️以下、ネタバレ有り⚠️》










その他、
○ ウォンが崖下に落とされたり、プロフェッサーらがコテッと死んだり、結構明確に男性キャラを優先的に退場させている。その意図を完璧には掴めていないが、戦いの動機が 愛する人を喪失した故の母性=女性 から来ている、という香りは全編から嗅ぎ取ることができる。
○ オープニングのストレンジ死亡案件がラストで効いてくるのが上手い。『死霊のはらわた』であった。
○ 死んだ別ユニバースの自分を操る=ドリームウォークするラストバトルは、そうきたかという面白さ。ストレンジ自身の動きは地味だけど、これでいい。
○ 音楽を物質化しぶつけ合うストレンジvsストレンジのアクション。こんなの観たことない。
○「私はモンスターじゃない!」別の自分を直視することで、自分自身を見つめ直す。自分たちもフィクションや妄想やifに救われたり嫉妬したりするけど、そんな普遍の要素をマルチバースでしっかりやって見せた。NWHよりも思想的には一歩踏み込んでいる。暴走したワンダを止めたのは、彼女自身だ。
○「全ての宇宙で君を愛してる」← 多分、近いうちに色々な人にネタにされる。僕は死にましぇん的な。ただこのシーン、マジでかっこよかったです。一番好き!
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