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火口のふたりのyumeayuのレビュー・感想・評価

火口のふたり(2019年製作の映画)
4.0
"身体の言い分"

飲んで、食って、やって、寝る。
思ったのは人間ってやっぱり動物なんだということと、社会って理性の上で成り立ってるんだなってこと(笑)。


結婚を間近に控えているというのにどこか抜け殻のような直子と、離婚を経験し30過ぎなのにダラダラと毎日を過ごす賢治。
直子の結婚式に出席するため帰郷した賢治が、直子と再び関係を持ったことから物語は動き出す。

いとこ同士ながら、かつて恋人だった2人。
「1日だけ」という約束だったのに、いけないという気持ちとは裏腹に体は嘘をつけず関係は続く。
過去を思い出すかのように貪り合う2人。それを象徴するかのように今作の出演はこの2人だけ。まるで世界には2人しかいないかのようだ。

結婚式までのリミットは5日間。
過ぎていく時間…。
そして物語は終盤に唐突に展開する。

自分たちとはどこか隔たりのあった社会が急に終わりに近づくことで、嫌が応にも向かい合わなくてはならなった2人。
どこか浮世離れしていた2人が未曾有の危機に際して、ようやく生きるということに向き合うようになる。
囚われた過去から未来へ動き出した2人。ある意味で本能のまま生きる彼らにとっては生きやすい世界なのかもしれない。


白石一文の小説が原作。未読のため、比較はできませんが多少のアレンジはされているよう。
劇中気になったのは説明セリフが多かったところ。これは意図したところなのか? ちょっと気になりました。そのためか、賢治が年齢のわりにジジ臭いというか、口調が今どきっぽくないなという印象を受けました。

また今作はかなり3.11の震災に影響を受けた作品でした。
関東人としてびっくりしたのは、東北地方の中で秋田県人が被害が少なかったことに負い目を感じているということ。複雑ですね。なんか日本人らしい考え方だなと思いました。

印象的だったのは賢治が言った「被災者になったふりはできても、被災者にはなれない」という台詞。
あの震災以降、各地で様々な自然災害が起こりましたが、当事者ではない者にとって実に的を射た台詞だと思いました。これも複雑。

また、ラストの海辺のシーン。
彼らの後ろにそびえ立つ大きな風力発電は原発に対するアンチテーゼだったのでしょうか。
劇中でも、原発が壊滅な打撃を受けるであろうと示唆しれてましたし。

余談ですが、小さい劇場ながら満席だったのですが、とにかくお爺ちゃんお婆ちゃんだらけだった。
なぜ????
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