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aftersun/アフターサンのyumeayuのレビュー・感想・評価

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)
4.5
"ソフィ、愛しているよ"

11歳の夏休み。離れて暮らす父親カラムとトルコのリゾート地にやってきた娘のソフィは、プールやダイビングなど親子水入らずで、ひと時の休暇を楽しむ。
そんな時、ソフィは父親にふと疑問を投げかける。
「11歳の頃に想像した31歳ってどんなだった?」
親子なら何てことのない問いかけのはずだが、カラムは戸惑いの表情を見せる。

そして現在。かつての父親と同年齢になったソフィは消化しきれない複雑な想いを抱きながら、父親と過ごしたあの夏の日を思い出している。
子供の頃に気づけなかった、あの時の父親の心の奥。あの時の父親の気持ちに少しでも気付いていたなら…。

いくらなんでも、11歳の子供に察しろというのはあまりにも酷だ。ましてや相手は父親。どんなに辛く不安な状況でも、父親として子供には悟られまいと、少なからずプライドもあったのかもしれない。
やがてソフィも大人になり、親となり、ようやく当時の父親の気持ちを多少なり理解できるようになった。父親の不安定な行動や、ふとした言葉の端々に苦悩が垣間見えたことを思い出す。

物語の後半、印象的なダンスホールのシーンでかかるクイーン & デヴィッド・ボウイの「アンダープレッシャー」。
"これが僕たちの最後のダンス"と、まるでカラムの心情を歌ったかのような歌詞が胸に刺さる。
空港で娘を見送るカラムがどんな気持ちだったかと想像する。娘の成長を見守りたい気持ちと、もう一緒にはいられないかもしれないという気持ち。自分も娘を持つ父親として、カラムの気持ちを考えると胸が締め付けられる。

「離れていても太陽を見れば同じ空の下、パパを近くに感じることができる」
今もソフィの自宅には父親に買ってもらった絨毯が今も引かれている。いつかソフィは後悔の念に向き合うことができるようになるのだろうか。あのトルコで過ごした夏休みが、いつか良い思い出として受け入れられるようになってほしいと思わず願ってしまった。

本作は本当にホームビデオを見ているかのような作品で、全編に渡って余計なセリフや説明がない。
どこまでも広がる青空と淡いビデオテープの色合いがとても美しいが、一方で不穏な雰囲気が常に漂っていて、そのギャップが何とも言いがたい。劇中ではカラムがなぜ不安に苛まれているのか、カラムがどのようにこの世を去ったのかは知る由もない。

物語の行間を読む力が試される作品なので、人それぞれ解釈や感じ方は異なるだろう。
しかし、どんな捉え方をしても間違いではないし、正解もない気がする。あまりにも説明がなさすぎるとも言えるのだが、自分はとても観客を信用してる作品だなと感じた。
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