とらキチ

アスのとらキチのレビュー・感想・評価

アス(2019年製作の映画)
3.9
鑑賞後、ジャケ写を改めて見ると、込められた意味がいろいろ読み取れて深いなぁ…ってなるパターン。
今作を理解するうえで絶対欠かせないのが
“ハンズ・アクロス・アメリカ”というイベント。あの「ウィ・アー・ザ・ワールド」に味をしめたのか、同じ仕掛け人によって今度はアフリカではなくアメリカ国内のホームレスや貧困層の救済のため、国民の連帯と寄付を求めようとした慈善イベント。西海岸カリフォルニアから反対側の東海岸ニューヨークまでの約6600キロを600万人以上の人々が15分間、手と手を繋ぎ“人間の鎖”を作ろうとしたのだが、遠く離れたアフリカの人々を想うならともかく、アメリカ国内の貧困者はそれこそ目の前にいるだろうに、何故そんな抽象的な事をしなければならないのか?それに参加するにしても、10ドルから35ドルを寄付し、見返りとして記念のTシャツを手に入れ列に加わるのだが、何故そんなまわりくどい事をしなければならないのか?そもそも何故手を繋ぐことが貧困の救済になるのか?5,000万ドルから1億ドルの寄付金を集めることが目標に掲げられたが、実際は3,400万ドルしか集まらず、そのうち半分以上が経費として消えたという。要はそんな偽善に満ちた大失敗イベントへのアイロニーが今作には貫かれている。「私たちは連帯してる!」みたいな雰囲気を出して同調圧力をかけてくるという違和感。掲げられる目標、テーマは全くもって間違っていないし、素晴らしい事。でもそれを本当に実現させたいと思っているのなら、なんか違うんじゃないかと思えてしまう。そしてこの時抱いた違和感が、実は30年近く時が経過した今でも影響を与えていて、それが現在のこの格差、分断をもたらしているのではないのか?ということ示している。
ラスト、息子ジェイソンは真の母親の事に気付く。だが彼はその事に気付かなかったフリをする。富裕層の人々が数多いる貧困層のことを敢えて見えてないフリをして関わらないようにしているかのように。コレこそ現代の風潮を見せている今作のテーマそのものだ。
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