ぐるぐるシュルツ

ヨーゼフ・ボイスは挑発するのぐるぐるシュルツのレビュー・感想・評価

3.9
一人一人の胸の中に
一人一人の問いに
届かせられるか
そしたらその分
自分の世界は変わっていける。

〜〜〜

ドイツの鬼才・奇才の芸術家、ヨーゼフ・ボイスの創作活動を、年代ごとに追っていくドキュメンタリー。

ボイスは常に、
決めつけの世界や自分自身を改めて規定し直すために、
外に向かって働きかけていきます。
その一つが「彫刻」です。
ただ固定された彫刻ではなくて、
それは移動していく、
変化していく最中を
切り抜ければ切り抜けるほどよいのです。
なぜなら、変化の最中には、
自分の意思が介在しなくて、
自然の予測不能の反応があるから。
その決めつけられない反応に対して、
ボイスはまたアクションを起こす。
すごくインタラクティブ。
こうした「対話」を通じて
問いかける疑問、問いかけられた疑問に
自分の中で規定しながら答えていく。
それがボイスの芸術性なのではないでしょうか。


そして、徐々にそれは
対ヒトや対社会のものへと
昇華されていきます。
でも、やっていることは同じ。
相手へ煽動やアクションして反応を見る。その反応が生み出した疑問に答えることで、
絶えず自分を規定し直して、
少しずつ広げて明らかにしていく。

ボイスは時折、
何も考えていない
おふざけしている
ただの目立ちたがり屋にも見えます。
ばかばかしてくて、笑えてくる。
でも、そんな僕らの思考すら、
彼に対する反応となっていく。
それすら、ボイスは自分の世界の変化に活用してしまう。
勿論、反応は過激なものもあって、
その度にボイスは傷つきまくるのがいいですね。
そんな結構センシティブなところに
やたら人間味がありますね。
でもだからこそ、
アクションを起こしたことで、
それは挑戦となり、
同時に成功でもある。
あぁ、勉強になります。

彼の瞳がもつ潤いと、
全ては解決できるという意思に
とても惹きつけれらました。
さすが稀代のアーティストといった感じ。

多様な視点で世界を広げるという意味では、
ドキュメンタリー自体も映像や写真、
音声、本人、他人、
多くの視点や資料を用いて、
ボイスの芸術性に寄り添った形で
彼を描こうとしているように思えました。
ネガに並ぶボイスの姿は
まさに一つ一つが
なにか一つの視点となっているようで
印象的でした。

「I like America and America likes me.」
THE 1975というバンドが昨年発表した同名の曲があるのですが、
ボイスからの引用だったのかぁ。
ふむふむ。

個人的に好きな作品は
死んだうさぎに絵を見せるやつです。
いやいや、歩かせないで(笑)