じぇれ

よこがおのじぇれのレビュー・感想・評価

よこがお(2019年製作の映画)
4.8
【無自覚の”よこがお”に震えろ!】

皆さんにお伝えしたいのは、公式のあらすじはあまりにも書きすぎだということ。
まだ読んでいない方は、そのまま公式のあらすじを読まずに映画館に行ってください。

というわけで、冒頭の数分にわかることだけを、私なりにまとめ直してみます。

《あらすじ》
とある美容室。髪を染める妖艶な女性には、何か思惑があるようだ。
画面が替わり、過去へ。優しく訪問介護をする地味な女性。
明らかに2人は同一人物だが、一体彼女に何が起こったのか?

なぜこれしか書かないのかと言えば、本作の最大の魅力が、観客への情報提示の巧みさだからです。
それもセリフで説明するのではなく、私たち観客に類推させていきます。
この過程が実にスリリング!

はっきり言ってしまえば、ストーリーを文字にしてしまうと大した話ではないのですが、観客に積極的に探らせていくことで、私たちを混沌とした心の世界に巻き込む映画なんですよ。
だからこそ、極力前情報なしで観ていただきたいと思います。

本作は『淵に立つ』とも違う深田監督の新たな境地と言えます。
音の使い方も絶品で、鑑賞から数日経った今でもラストシーンの音が胸を締め付けてきます。

もう一つのみどころが、本人も無自覚なままふと”よこがお”に表出してしまう心の奥。
筒井真理子の精緻な演技が実に素晴らしく、もはやイザベル・ユペールの域に達したと言っても過言ではないでしょう。

近年の日本映画には珍しい、艶やかで冷ややかなおぞましい女性映画に仕上がっています。
それでいて、清々しさすら感じるんですよねぇ。

とにかく観て! 傑作です。
じぇれ

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