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任侠学園のsanbonのレビュー・感想・評価

任侠学園(2019年製作の映画)
3.6
終始「これ連ドラで観たかったなぁ」感が付き纏う"第1話初回2時間スペシャル"的クオリティの作品だった。

今作の監督は「木村ひさし」という人物だ。

代表作は「TRICK」シリーズなどで、ドラマ特有の味気ないエンドクレジットの中でも一際目を引く「手書きで苗字と名前の間にニコちゃんマークの人物」と言えば、その名にピンと来る方もいるかと思う。

この監督の演出上の特徴といえば「小道具などを駆使した"大味"なボケ」なのだが今作でもそれは健在で、理髪店の店先に貼られた「西島秀俊」のパンチパーマ写真だったり、トランシーバーでのしつこく繰り返されるオーバーなやり取りだったりと、とにかく"テンション"と"インパクト"と"天丼"で笑いを起こそうとする"一発芸"的な笑いがこの監督の売りな訳だが、それは予期していた事なのでまあいいとして、惜しむらくはもう少し"ヤクザ"と"学校"のハイブリッド感が楽しめる要素が含まれていれば尚良かった。

というのも、この物語は社会貢献に熱心な「阿岐本組」が、組長の意向で経営が困窮した学園を建て直すといった話なのだが、ヤクザが高校経営に携わった事による"目からウロコ"なケミストリーがいまひとつ起こっていなかったからだ。

昔気質な極道といえば、徹底された縦社会制度の中で"義理"と"面子"に命がけなイメージがあるが、コンプラに"雁字搦め"で波風が立つ事をなによりも恐れる現代の"異様"な教育現場とは正に正反対に位置する世界な訳で、その独自理論の社会性で萎縮しきった日本の教育制度に一石を投じる"カルチャーショック"を味わえるものと期待していたのだが、その快感は残念ながら足りていなかったと言わざるを得ない。

物語上は、もちろん阿岐本組の介入によって学園の風紀は徐々に回復してはいくのだが、それが極道の流儀を展開したものではなく、あまり関係性も納得感も得られない突飛なアイデアで改革を試みる描写ばかりで、これ別にヤクザじゃなくても良くね?と思ってしまう。

それこそ、学園の外ではヤクザらしい見せ場はもちろんあるのだが、あくまで学園の改革としての見せ場に絞った場合は「喧嘩の仕方」だったり「カタギには手を出さない」や「問題児の扱いは得意」のようなそれっぽい展開はあるものの、それらにはあくまで瞬発的な威力しか無く、これぞヤクザ"だからこそ"といえる着眼点が、要素としてあまり活かされていない点がどうしても気になって仕方がなかった。

また、根本的に"学園もの"はやはり映画の尺ではかなり難しいものがある。

学園ラブコメは別としても、とりわけ改革を題材とした学園ものというのは、本来複数人の問題児を一人一人更生させ仲間に引き入れて発展していくものである為、そもそもが2時間のボリューム感で収まる筈はないのだ。

しかも、今作はそれとは別に、学園の経営に関しても目を向けなくてはいけない訳なので、急ぎ足で事が運んでいってしまう忙しなさはどうしてもあったように思うし、ラストも感動的な演出はあるものの、急展開がたたって感情がそこまで成熟しきらずにそれを迎えてしまったが故に、涙を誘うには時間があまりにも足りなすぎたと感じた。

なので、TV枠では集めるのが難しそうな豪華俳優陣を多数出演させ、なんとか無理くり映画の"体裁"を保ってはいたが、むしろ内容的にも1クールを通してしっかりと観たかったと感じる程度には面白さはあったので、どうせ劇場で観るにしてもドラマ化を経てしっかりと基盤を作ったうえで、満を持して公開しても良かったんじゃないかと思ってしまうくらい、映画化を選択した企画の段階で既に勿体無さでいっぱいだった。

原作の小説も、組長の安請け合いで様々な不採算案件に次々と首を突っ込みまくるシリーズもののようなので、ヒットすれば続編は作る気まんまんなのだろうが、正直なところお金を出させてまで集客を狙うコンテンツとしては、いきなりの映画化は少々ハードルが高かったかもしれない。

これで、貴重な優良コンテンツが一つ無駄に潰れたなどという事態にだけはならない事を祈るばかりだ。
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