keith中村

イン・ザ・ハイツのkeith中村のレビュー・感想・評価

イン・ザ・ハイツ(2021年製作の映画)
5.0
 これぞ、21世紀版「ウエスト・サイド物語」だ!

 いや、それはスピ師匠が実際に撮っちゃったわけだけど(ま~た公開延期かよ! 早く見せて~!)、こっちも"Yet Another West Side Story"といったところ。
 といっても、ワシントン・ハイツは地域としてはウエスト・サイドには属さないんだけれど、本作はスピ師匠の「ウエスト・サイド」とロケ期間と場所が重なっていたので、お互いほんの目とは鼻の先で撮影してたこともあったみたいです。
 
 ともかく、本作は21世紀版「ウエスト・サイド物語」であり、傑作でした。
 「ウエスト・サイド」以外にも、実に様々なミュージカル要素が入っている。
 
 まず、冒頭のナンバー" In The Heights "で提示されるのが本作のテーマですが、それにはざっくり二つあって、「移民問題」と「skid rowからの脱出」。
 このナンバーは、「ウエスト・サイド物語」の"America"と、「リトルショップ・オブ・ホラーズ」の"Skid Row"と、「ブルース・ブラザーズ」の"Shake Your Tail Feather"の「いいとこ取り」になっていて、「ラ・ラ・ランド」の時と同じく、いきなり「もってかれる」素晴らしいものでした。
 「移民問題」は「ウエスト・サイド」譲りだし、「skid rowからの脱出」は「リトルショップ」の系譜ですね。それを1曲目の歌詞と演出が、オマージュしてるんだと解釈しました。
(「skid rowからの脱出」というテーマについては、本作では「青い鳥」のような正反対の着地を迎えるんだけどね)
 
 いろんな過去のミュージカル映画を想起する(=作り手がオマージュしているのに違いない)シーンやカットは山ほどあるんだけれど、印象に残ったものをあと三つだけ書いておきますね。
 
 ひとつは、プールでの"96,000"。
 エスター・ウィリアムズの「ひとり1ジャンル(One of the kind)」でしかなかった「水泳ミュージカル」をまさか新作で観られるとは思いませんでした。
 水中撮影もあるし、「真上から撮った人間万華鏡」、いわゆるバスビー・バークレー・ショットもあった。
 
 もうひとつは、アパートのベランダ(からの~)の、"When The Sun Goes Down"。
 ここは非常階段もあるので、「ウエスト・サイド」の"Tonight"要素も入ってるんだけれど、それ以上のまさかの「恋愛準決勝戦」! 重力無視してでも踊る! ってやつね。
 最近ではノーランが「インセプション」のホテルの廊下でやってた奴。あれ、ノーランだから、CGじゃなく、「恋愛準決勝戦」と同じ古典的トリック使ってるんだよな~。
 あと、「ドクター・ストレンジ」もそうか。こっちは、CGばりばりで実現してた。
 本作はどうなんだろ。役者さんの部分は、古典的に「セットとカメラを同時に回す」でやってるところに、遠景をCGで合成しているように見えました。
 
 三つめは、"Carnaval Del Barrio"のシーン。
 これは、「ウェスト・サイド」で言えば、"America"に相当する第二幕の盛り上がりシーン。
 ただし、あっちでは「親アメリカVS親プエルト・リコ」のディベートになってたのが、こっちは「汎ラテンアメリカばんざい」的な国境を越えた「ラテンアメリカの連帯と団結」を描いていて、そのアップデート感も心地よかったです。
 
 ここでは、「オズ」の"There's no place like home"も歌詞になってました。
 英語では普通にある言い回しだけれど、あまりに「オズ」すぎるので、映画では逆に避けられることが多い言い回しなんですよね。
 たとえば、"It's good to be home"とかに言い換える。
 本作で、まんま"There's no place like home"だったてことは、やっぱりこれもオマージュなんでしょう。
 
 ちなみに、私ゃ、昔っから素晴らしいミュージカル・シーンを見ると、感激して泣いちゃう習性があるんですが、本作も素晴らしすぎてずっと泣いてました。
 本作は、歌詞の韻もとことん追求されてて、「眼福」プラス「耳福(そんな言葉はない! と思いつつ書いたけど、調べたら中国ではあるみたい)」という体験でした。
 
 あ。
 これも書いとかなくっちゃな。
 ウスナヴィさんが、子供たちに教える「チタ、リタ、フリーダ」のくだり。「憶えとかないと、テストに出すぞ!」なんつってましたね。
 ここで引用されるのはすべてラテンアメリカ系の偉人女性です。
 
 順番に行きましょう!
 チタ・リベラ。ブロードウェイ・ミュージカルの女神!
 リタ・モレノ。は~い! みんな大好きアニータ! スピ師匠版にも出るみたいなんで、めっちゃ楽しみです!
 フリーダ・カーロ。メキシコの現代絵画の一人者! 子供が「一本眉の画家?」って言ってるのはこの人です。
 セリア・クルス。「サルサの女王」!
 ドロレス・ウエルタ。アメリカの全国農民協会の創設者!
 イサベル・アジェンデ。チリの作家。映画化作品としては、メリル・ストリープの「愛と精霊の家」とか、アントニオ・バンデラスの「愛の奴隷」とかね!
 サンドラ・シスネロス。この人も作家。代表作は、「マンゴー通り、ときどきさよなら」!
 フリア・デ・ブルゴス。プエルト・リコの詩人! あと、公民権運動家!
 リゴベルタ・メンチュウ。ノーベル平和賞を授賞した人権活動家!
 ミラバル姉妹。ドミニカの反独裁政権運動家!
 
 子供がそれに付け足すのが、ソニア・ソトマイヨールでした。
 オバマさんに指名されて合衆国最高裁判事になった人!
 
 あと、子供たちが間違えて「バナナ・ハットの人?!」って言うのがカルメン・ミランダ。
 この人は、日本ではリタ・モレノほど有名じゃないけれど、古参のミュージカル映画ファンなら知ってますよね!
 日本でいちばん有名なのは、リズ・テイラーの「スイングの少女」かな?