シエル

イン・ザ・ハイツのシエルのレビュー・感想・評価

イン・ザ・ハイツ(2021年製作の映画)
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「自分たちはパワレスじゃない、パワフルだ」と、歌って踊ってパワーを発散する、ニューヨークのラテン系移民たちの、「諦めなければなんとかなる」をポジティブに表現した、とてもアメリカ的な作品。

ウスナビ役のアンソニー・ラモスがとってもキュート。
ラテンミュージックが心地良い。
ダンスは、もちろんラテン系なんだけれども、なんていうか、“ハリウッド系”とでもいうのかな、綺麗にまとまりすぎというか、ラテンのコアな部分が“脱臭”されちゃっているような感じで、個人的にはちょっと残念だった。
全部綺麗である必要なんかないのよ。街の人々の上手いも下手もごちゃ混ぜの、ただパッションとグルーブがあるような、そんなシーンでいいのに、と思ってしまった。

改めて思ったのは、ミュージカルは結局深い事を語れないのではないか? ということ。
悲しくても嬉しくても、最も感情の動く時に歌い踊ってしまうということの意味を改めて考えさせられる。それが感情を観客にダイレクトに伝えるということは間違いない。そのため思いがけず泣いてしまったりすることもある。それ自体は素晴らしい伝達手段だと思う。
その反面、ミュージカルは観客に考える暇を与えないということも事実だ。
私たちは何も考えずにただ感じる。

それが、いいとか悪いとかでなく、ただそうだということ。

ほとんどのミュージカルはあらかじめハッピーエンドが約束されている。
そこに至るまでの間、泣いたり笑ったりして感情を発散させ、明日もまた生きて行こう、と観客に思わせるのがミュージカルの役割なのだと思う。

本作を観ながら、フレデリック・ワイズマン監督『ジャクソンハイツへようこそ』を思い出した。ニューヨークで同じように移民問題を抱える地区のドキュメンタリーで、リアルな状況を垣間見ることができる興味深い作品である。

(過去の鑑賞メモ)
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