ずどこんちょ

燃えよ剣のずどこんちょのレビュー・感想・評価

燃えよ剣(2021年製作の映画)
3.6
原田監督の早口言い回しは健在でした。

司馬遼太郎原作で、新選組の土方歳三の運命を新選組結成から函館戦争で散るまでで描きます。

良いなぁと思ったのが、やはり百姓出身の土方歳三と近藤勇らが隊士としてではなく幼馴染として接するいくつかのシーン。
まだ百姓出身の癖で小股で歩く歩き方が抜けない土方に近藤が田舎くさいと注意します。一方の土方は近藤にこれからは昔からの呼び名である「トシ」ではなく、「土方くん」と呼んでくれと要求。
改めて近藤勇から「土方くん」と呼ばれた土方は慣れない呼び名にくすぐったくて2人でニヤつきます。
京の街を守る新選組として、そして隊士たちに厳しい戒律を守らせる局長、副長として肩を張る近藤と土方ですが、二人で過ごす時間はあの百姓だった頃の延長線上にあるのです。

土方があれだけ冷めた目で見ていた写真撮影をする時に、近藤、総司、源さんといった試衛館の面々が林の向こうから顔を覗かせて悪戯っ子みたいにニヤけるのも可愛くて愛おしいシーンでした。
どんなに剣客集団として攘夷派志士らに恐れられていたとしても、彼らの原点は道場仲間なのです。

キャストも豪華。岡田准一、鈴木亮平、柴咲コウと大河主演俳優3人もいるんです。安定感は抜群です。
驚いたのが、かつての人気芸人たちの活躍ぶり!藤堂平助を演じた、はんにゃの金田はもうあのギョロギョロした目からすぐ気が付きましたが、新選組から離れて土方歳三と対決する運命を辿る、かなり良い役をもらってました。剣を抜く様もなかなか。
もう一人何より驚いたのが、商人出の山崎烝を演じたウーマンラッシュアワーの村本ですよ。登場から商人調の早口言葉でクセが強く、どこかの落語家さんか何かかと思いましたが、まさか彼だったとは!ちょっと恰幅良くなったのでは…?
でもこれがナイスキャスティングで、ウーマンラッシュアワーの早口漫才で鍛え上げられた台詞回しが言葉の洪水のようにとめどなく流れ続けます。すごい。
薬屋に化けて潜入調査していた池田屋で「俺は新選組の山崎烝だ!」と正体を明かすシーンとかカッコ良過ぎて。
二人とも違和感なく新選組隊士を演じていたので、これからも独特の雰囲気を出す俳優としての活躍を期待したくなりました。

ストーリーは土方歳三の人生を淡々と描いていきます。
でも、「鬼の副長」と呼ばれ、美男子で女性にもモテたというイメージの強い土方歳三を、たった一人のお雪という女性との関係性だけで描くのは新鮮でした。
お雪と接する時、土方はいつも誠実で嘘をつけなかったから。嫌いな野菜は嫌いと言い、誰が殺したかと問われれば自分たちがやったと正直に答えます。
嘘をつかずに真正直で、最期は敵に背を向けることなく死を覚悟して真正面から突っ込んだ土方歳三。愚直と言われればそうですが、彼は間違いなく百姓ではなく侍として生きたのでした。