keith中村

DUNE/デューン 砂の惑星のkeith中村のレビュー・感想・評価

DUNE/デューン 砂の惑星(2020年製作の映画)
5.0
 チャークサ!
 アイ・アム・ポール!
 アイ・アム・デューン!
 ショージはドゥーン!
 
 さすがはドゥニ・ヴィルヌーヴ。映画史上初めて、「DUNE」に成功しちゃった。
 過去に二人の鬼才が失敗した、映画界の鬼門なのに。
 最初に「PART ONE」と出てきたんで、「騙された。一本で完結じゃなかったんだ」と何となくがっかりして、そうすると鑑賞する気持ちもかなりネガティブな状態になってしまったんだが、すぐにそれも吹っ飛んだ。
 何という映像を見せてくれるんだ! 驚異的な映像に圧倒されまくりました。
 
 リンチさん! ホドさん! 浮かばれましたよ!(二人とも死んでないってば)
 
 時系列としては最初が1970年代のホドさんの企画。
 予算が膨れ上がって、中止になってしまった経緯がドキュメンタリー映画になってるけど、これはキャスト・スタッフ陣が豪華だった。

レト公爵:デビット・キャロライン
皇帝:サルバドール・ダリ
ハルコネン男爵:オーソン・ウェルズ
フェイド:ミックジャガー
パイター:ウド・キア

 スタッフとして、ダン・オバノン、クリス・フォス、メビウス、ギーガー。
 音楽はピンク・フロイドとマグマ。
 なんちゅう凄さなんだ!
 
 このドキュメンタリーを観ると、ホド爺が大好きになります。
 作風から想像するといかにも偏屈そうなホドさんの、お茶目なこと。
 下手くそな英語(何しろ"childs"なんて言っちゃってる。磯野貴理子か!)で一生懸命早口に、嬉しそうに語るホドさん、最高でした。
 何よりも、リンチ版を語るところが爆笑もの。
「だってさ、あいつ才能あるじゃん。俺も尊敬してんのよ。そんなの、俺以上の傑作に決まってんじゃん?! で、恐る恐る観に行ったわけさ。したら……」
 からの「ざまあ!」が堪りません。
 
 とはいえ、仮にホドロフスキーが完成させていたところで、傑作になっていたとは思えません。
 「リアリティのダンス」以降の円熟した演出なら成功したかもしれないけれど、当時のホドロフスキーだったら、結構なトンデモ作品になっていたはず。それこそ、「フラッシュ・ゴードン」みたいに。
(ドキュメンタリー内で、影響を受けた後の傑作群のひとつとして、「フラッシュ・ゴードン」が引用されるけど、あれは出さない方がよかったと思う)
 ホドさん版は、逆説的に「作られなかったことで、傑作として永遠に記憶される作品」となった。
 
 で、1984年がリンチさんですよ。
 当時まだ、「ブルーベルベット」も「マルホランド・ドライブ」もなかったけれど、すでに「若き天才」という感じだった。
 私も期待して観ましたよ。
 その結果。ホドさんと同じ。「なんじゃ、こりゃ?!」
 
 あれは、リンチ映画というよりは、ラウレンティス映画でしたよね。
 リンチ作品だと思って観るとぜんぜん駄作だけど、ラウレンティスの大作映画だと思うと、「まあ、こんなもんだろう」と納得できる。
 そういや、「フラッシュ・ゴードン」もラウレンティスなんだよな。
 
 ホドさん版と共通するのは、ロックスターを出演させてること(こっちはミックじゃなくスティング)と、プログレ系の大物ミュージシャンが音楽を担当していること。こちらは、ブライアン・イーノ。あと、エンド曲がプログレ・バンドじゃないけど、TOTO。
 今回は、ハンス・ジマーでしたね。相変わらずいい仕事してたなあ。
 
 そもそも原作が長いってことが問題なんだけれど、リンチ版はひたすら駆け足でストーリーが進んでいくし、キャラが立ってないから、誰が誰かよくわからなくって、感情移入もできない。
 しかも、いろんな登場人物のナレーションが入る。これがひたすら鬱陶しい。
 とりわけ凄いのが、冒頭アップで登場して設定を延々と語るイルーラン姫が、ほとんど物語に影響を与えないんだ。「お前、誰?」って感じ。
 どれだけ駆け足かというと、ドゥニさんが2時間35分かけて描いたところまでが、ちょうど1時間半。1時間以上短い。
 その後も、ポールがよくわからないうちに青い眼になって覚醒してるし。
 ってか、ラスト、「アイ・アム・ポール!」じゃないじゃん!!
 
 チャンバラがなくって、武器がレイガンに変わってるところも、ぜんぜんワクワクしないし、呼吸用のチューブ(?)のせいで全員チョビ髭のヒトラーに見えてくる。
 あと、全体的にプロダクション・バリューが低い。
 四千万ドルくらいかかってるらしいから、当時としては大作なんだけど、VFXが「ほんとにスター・ウォーズ以降の作品か?」と思ってしまうくらいチープ。「今観ると」じゃないですよ。当時からチープに見えた。
 
 役者はよかったんだよね。
 まずは主役のカイル・マクラクラン。当時結構鳴り物入りで紹介されたハンサム俳優でした。結局リンチ作品以外ではあんまり見ないけど。サム・ライミ映画のブルース・キャンベルみたいなもんか。
 何より、名前がいい。カイル・マクラクラン。声に出したくなる。
 声に出して読みたい日本語。それは、カイル・マクラクランと駒大苫小牧。
 はい、皆さんご一緒に。カイル・マクラクラン!
 
 あと、マックス・フォン・シドー出てました。
 「ヨーロッパの名優がハリウッド映画に出ると、安い役で無駄遣いされる」の先鞭をつけたのは、この人あたりからかな。メリン神父は良かったけど。
 「フラッシュ・ゴードン」も出てたよねえ……。
 
 それから、ショーン・ヤングは「ブレラン」のすぐ後でした。お綺麗です。
 ブレランといえば、ショーン・ヤングはドゥニさん版にも出てましたね。
 「プロフェッサーX」も出てるけど、今と見かけが変わんないの。笠智衆みたいなもんですな。
 教母役がシルヴァーナ・マンガーノ。「原爆女優」(死語)ですね。
 この人も「ヨーロッパの名優がハリウッド映画に出ると」枠だけど、ラウレンティスの奥さんなんで出演したってことか。
 大御所ではホセ・ファーラー。ジョージ・クルーニーの伯父さんね。
 スティングはさっき書いたか。「さらば青春の光」あたりから、脇役でちょいちょい出てますね。「バロン」の酷い扱いには笑った。
 
 でもって、今回のドゥニさん版です。
 控えめに言っても傑作。手垢のついた言い回しだけれど、「驚異の映像体験」としか言いようがない。
 SFのセンス・オブ・ワンダーを映像で体現して見せたマスターピース。
 しかも、デンゼイヤちゃんが言う通り、「This is only the beginning」。後半に期待しちゃうじゃないですか。製作は確定していないみたいだけれど、ぜひお願いします!
 
 本作はリンチ版と違って、キャラが立ってる。
 まあ、リンチより1時間も長い尺を使ってるので、当然ではあるんだけれど。
 
 過去2作と並んで、いや、それ以上に、本作もいい役者を集めてます。
 
 まずは何と言ってもティミーくんですね。「ティモテー♪」ですよ。
 ホドさんは息子のブロンティスくんに演じさせようとしていた。「エル・トポ」のあの子ね。
 次にカイル・マクラクラン。はい、皆さんご一緒に。カイ(略)。
 で、本作。もう、決定版ですね。
 ジミー・ディーンに似てるんだけれど、さらに線が細くって、かつヨーロッパのノーブルな香りがする(なのに、ヘルズ・キッチン生まれなんだよなあ)。
 全身から「貴族感」が漂ってくる。
 
 お母さん役がレベッカ・ファーガソン。とうとうお母さん役するようになったんだねえ。
 といっても、ティミーと一回りしか年齢違わないけど。
 で、パパがオスカー・アイザック。ポー・ダメロンはバリバリの若者だったのに、こっちは渋い役どころ。
 
 側近、というのかな、アトレイデス家に仕えるのが、サノスとアクアマン!
 ハルコネン男爵は、スカルスガルドさんちのお父さん。
 その甥っ子がドラックス!
 フレーメンに、アントン・シガーとMJちゃんですよ。ちなみに、デンゼイヤちゃん、「メリー・ジェーン」じゃなく、「ミシェル・ジョーンズ」でMJなんですね。
 それから、シャーロット・ランプリング。最初顔が映らないんで、「絶対大御所のはずだけど、誰?」ってなりました。しばらくして一瞬だけ顔が映ったけど、「多分、シャーロット・ランプリングかな?」くらいの一瞬さ。
 
 とにかく、全員キャラが立ってる。デンゼイヤなんて、ほとんど台詞もないのに。
 あと、アクセントの使い分けがいいですね。レディ・ジェシカがイギリス英語を話してる。
 フレーメンたちもアクセントが違うし。
 
 ドゥニさん、リンチ版は絶対見てるな。で、リンチ版でダメだったところをちゃんとやろうとしてる。だから、キャラがすごく立つ。映像もイマジネーションも素晴らしい。
 それが証拠に「鼻チューブ」の管が続く先が、リンチ版では向かって右だけど、本作では左でした。あと、チョビ髭感ゼロだった。「リンチ版の逆をやってやるからな」と、文字通りの「逆張り」なんでしょう。
 
 ところで、リンチ版では全然その印象がないんだけれど、本作のフレーメンはかなりイスラム文化に寄せて描かれてましたね。たしかに砂漠の民だし。
 だから、「白人酋長もの」感が強い。
 まあ、敵の設定が白人酋長ものと違って、「祖国」じゃないんだけど。
 そうか。ということは、「アラビアのロレンス」と同じ構造なんだ。
 さあ、後半はどうなるのか? やるならドゥニさん続投の一択だな。

 本作、クレジットを短くしようという努力が見えたのも、嬉しい工夫でしたよね。
 まず、エンドロールに入る前の、主要スタッフのクレジットがかなり短い。3人くらい連名だと、私のWPMでは読み切れないくらい。で、ロールは文字がとても小さい。DVDだと読めないんじゃないかしら。それで時間を短縮してくれてる。
 最近はロールが長くなる一方なんで、ぜひほかの映画も見習ってほしい。
 ただ、ロールじゃなく、紙芝居方式のほうがもっと短くなるんだよね。
 ルカ・グァダニーノ版の「サスペリア」とか、「えっ?」って思うくらい短く済んでた。
 
 エンドロールといえば、アメリカン・ヒューメインが何か気になるよな。
 こういう動物がまったく出てこない作品(ネズミ的なあれはCGだよね?)でロゴを見ると、審査費用で儲けてる利権団体なんじゃないの? って思う。いや、憶測なんだけどね。