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家にはいたけれどのnetfilmsのレビュー・感想・評価

家にはいたけれど(2019年製作の映画)
4.2
 13歳の生徒が1 週間に渡り忽然と失踪し、あっけらかんとした様子で不意に戻って来たことは明かされるのだが、では少年が何のきっかけで戻って来たのかは定かではない。私は冒頭のウサギの描写から犬に移る場面で弱肉強食を想起したのだが、どうやらそれも違うらしい。タイトルの『・・・いたけれど』には小津安二郎を想起し、ウサギの皮肉の描写にはブレッソンを連想する。おそらくはアンゲラ・シャーネレクという作家そのものがドイツ映画の監督よりも小津やブレッソンやゴダールに入れ込んでいることは明白であろう。台詞を極限まで削ぎ落した物語そのものはグローバル資本主義からの脱落を暗に示した物語にも見えるが、実際のアプローチはまったく異なる。『ハムレット』のテキストが饒舌に語る家族の物語というのがそもそも難解で要領を得ないのだが、今作に横たわるのが父性の不在である。ウサギと犬の弱肉強食の関係を見守るロバもまた、欲望の対象にはならない屍を目の前に戸惑う(ように思える)。2年前に夫を失ったという母親の嘆きが体現する苦み走った苦しみが突如憑依したのだとすれば、彼女のヒステリーの餌食となった子供たちがひたすら気の毒なのだが、彼ら自身のルックがひたすら形を変える様は奇妙な驚きに満ちる。スーパーのバックヤードで詰られた少年は果たして彼と同一人物だったのかは定かではなく、王冠を被った彼の物腰だけが不意に浮かび上がる。
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