ぐり

システム・クラッシャー/システム・クラッシャー 家に帰りたいのぐりのレビュー・感想・評価

3.8
とても苦しい作品だった。
生きてるだけで誰かを傷つけてしまう人は、どこに行けば良いのか。
傷つく周囲はどう関われば良いのか。


暴力的ですぐに騒動を起こすベニー。
母親からも見放され、福祉施設をたらい回し
どこに行っても馴染めず、追い出され拒絶され、居場所がない。

ベニーは誰かを傷つけたいわけではなく、自己防衛本能が高いだけのように見える。
安全に心地良く暮らしたいだけ。
しかしトラウマからその自己防衛本能の発露が暴力となってしまう。
今ある心地良さを守りたいだけなのに、結果自らそれを壊してしまう。

周囲の大人たちもそんなベニーを助けたいと関わりを持つが、周囲もまた、生活があり自己の安全や社会の安全を確保する必要がある。
そしてベニーが手に余るようになる。
ベニーに幸せになってもらいたいが、自身を犠牲にするわけにもいかない。
ベニーに手を差し伸べるということは、自身の安全とトレードオフになる。

ベニーは自身に優しくしてくれる人に強く依存する。それはそうだ、やっと見つけた安全圏なんだから。
ベニーに手を差し伸べたミヒャがソーシャルワーカーのバファネに「距離の取り方がわからなくなった」と言っていた。
周囲の苦しみはそれに尽きるのだろう。

幾度となく、安全だと近づいてくる大人たちが結局は自分を拒絶するということが繰り返されるだなんて。
こんなに苦しいことがあるだろうか。

優しくしてくれたミヒャの家に逃げたが、やっぱりミヒャにも拒絶され、森に逃げたベニー。
もう誰にも傷つけられたくなかったのだろう。
もしくは、もう誰も傷つけたくなかったのかもしれない。

ベニーの白い肌にピンクの服が映える。
ベニー役の子のむき出しさはすごい。

ラスト、ベニーが空港でジャンプしたのは何だったのだろうか。
ベニーは誰にも傷つけられない、誰も傷つけることのない、究極の安全な世界に飛んでいってしまったのだろうか。
ぐり

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