翼

ナイル殺人事件の翼のレビュー・感想・評価

ナイル殺人事件(2022年製作の映画)
4.2
アガサクリスティ作品は、トリックではなく『何故殺したか』に尽きるところがいい。そして人は愛によって殺人をも犯す、という愛の罪深さを臆面なく描ききる戯曲のようなストーリーも今なお鮮やか。

初めての海外旅行のような、未知の地へ飛び出す勇気と高揚感。ナイル川を旅するような旅情。そしてポアロの真骨頂、灰色の脳細胞による謎解き…。「嗚呼、今ミステリの旅をしている」という推理小説特有の没入感が堪らない。劇場で息も忘れてどっぷりと酔いしれるべきだった。次作があるなら必ずそうする。

愛を慮るフランス人のようでいて全てを疑い冷徹に真実へ迫る、ポアロの仕事ぶりと人間性にも迫る。探偵は謎多き事件の中で唯一確かな存在で、拠り所でありどこか不可侵な存在でもある。その不可侵領域、エルキュールポアロの内側に切り込む脚本はアガサクリスティファンとしては「おいおい、いいのか!?」と胸熱展開。「灰色の脳細胞に鉄の仮面で本心を隠し、傲慢な自己愛によってエルキュールポアロ、エルキュールポアロと自分の名前をこんなに口にする人がいるでしょうか。」
↑実際これ面と向かって言われるのキッツイよね。笑
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