翼

“それ”がいる森の翼のレビュー・感想・評価

“それ”がいる森(2022年製作の映画)
1.2
私が16歳の頃、居酒屋でバイトしていた。今思えば未成年を雇ってくれる不思議な店だったが、とても繁盛していて猫の手も借りたかったのかもしれない。毎週金曜はとても忙しい。宴会もカウンターも満席でキッチンもホールもてんやわんやで…そんなある金曜日のピークタイムに、私はお盆に乗せたしじみの味噌汁2つをカウンター席に置こうとして、濡れたお盆をつつーっと椀が滑って、あろうことかお客さんのスーツにぶっかけてしまったことがあった。お客さんはカンカンに怒って、店長が謝りまくってて、高校生の私はこんな時どうしていいか全く分からなくてただペコペコ謝る店長の後ろで真っ青になって突っ立ってた。店長はテキパキとお客さんのスーツをたくさんのおしぼりで拭いて、お代もいただけないからサービス券渡してなんとか謝り倒して怒りを収めてもらって…その間私は申し訳なさと店長に怒られるのが怖くて、ただただ目を合わせないように黙々と片付けをしていた。それしか出来なかった。
お客さんが帰った後、背後から店長に「○○、事務所来れるか」って言われて。ビクッとなって、来た!と思って恐る恐るバックヤードの事務所の店長がすわるパソコンの前に行ってさ。もうホント超恐る恐る店長と目を合わせたわけ。

その時、店長笑ってたわ。
アッハッハって感じではなく、ただ寂しそうな悲しい目で、諦めたような無気力な様子で、私を見るというより私を透かして事務所の壁でも見てるかのような目をして、笑ってた。



この映画、電車の移動中にスマホで見たんだけど、暗転した場面の真っ黒のスマホ画面に、その時の店長と同じ目をした俺が映ってた。
人はなんともやるせない時、寂しそうに笑っちまうんだなぁ…
翼