空海花

シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢の空海花のレビュー・感想・評価

4.1
この日の3本目

フランスの田舎の郵便局員シュヴァル。
配達のために山道を30㎞も毎日歩く。
寡黙で何を考えているかわからないと
皆から快く思われている訳ではないけれど
上司は優しく見守っていて、結婚も2度する。子供もできて、最初はとても戸惑うんだけれど、娘を育てるに連れて何かが変わっていき
娘のための宮殿を作ろうとする。

費やした時間は33年。
10時間配達のために歩いて
道で石や倒木を持ち帰り、
夜にセメントを練って固める作業
たった独りで宮殿を建てる。

約30年で一人でこんな宮殿を建てるなんて
想像できない。
そう、つまり実話なのだ。
フランスに現存する歴史的重要建築物になっている。

10年後の宮殿が最初に映し出された時、
思わず「わぁっ」て言っちゃった。
あまり喋らないし、コメディ感は全くないのに主人公の態度とかに結構クスリとしてしまう。
映画館は数人くらいしかいなかったけれど
他の人もクスクス笑ってる。こういうのは何かいい。

配達中の山道を歩く長い時間に、新聞からアンコールワットを知り、山の自然にインスピレーションを得る。そして考える。建築の知識なんてないから最初は見ていて心配に。
大変だろうが、何かに突き動かされ行動することはある種の快感でもある。
そんな衝動を持ち続けられることに
本能から憧れを持つ人も居るだろう。
娘の為のようで自分の為で
自分の為のようでやはりどこか人の為
自分の為だけに人はこうも熱心になれるものではない。

静かで地道な暮らしに思えるが、
変人扱いされたり、それは本人意にも介さないけれど
シュヴァルには辛い運命が何度も起こる。
それでも宮殿を作り続け、それは完成する。
並大抵の努力ではない。
時々訪れる人々を魅了し、
次第に愛される宮殿になる。

もう何度も涙が出て、グシャグシャになった。

何度もどれだけの辛いことが人生に起こっても
人は幸せになれる。
目標を達成するのに必要なのは頑固さなんて
ちょっとおどけているようにも取れた。
勤勉さと不器用な愛だ。
そこに美学を少しでも感じられないと
この映画は真面目過ぎて退屈かもしれない。

何十年もの時間を描いているのに、100分程度の映画に仕上げているのも見事。
全然急いだり、詰め込んだ感じもしないのに、だ。下手な説明はきれいに省いている。

幸せ って凄い。
その言葉の中にたくさんの物事と時間が詰め込まれている。
安易に語るのも悪くないが
どんな物事をも含むことのできる
深く許す優しい言葉だ。
最後の光景は幸せそのもの。

これは脚色なんだろうと思う。
そう思うとこんな光景に集約させた作り手の感性と努力に驚嘆する。


2019劇場鑑賞19本目
空海花

空海花