YasujiOshiba

A Man for Burning(英題)のYasujiOshibaのレビュー・感想・評価

A Man for Burning(英題)(1962年製作の映画)
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おお、追加してもらった。Filmarks さん、仕事が早いですね。ありがとう!

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備忘のために:

○タヴィアーニ兄弟のデビュー作だけど、このときは、パオロ&ヴィットリオとヴァレンティーノ・オルシーニとの三人体制での監督。

○未公開のはずだけど、「火刑台の男」という邦題をみかけたことがある。(追記:どうやらイタリア文化会館で上映したみたい)。原題は Un uomo da bruciare (国際版は A Man for Burning )だから、「燃やすべき男」。映画を見た感じだと、「燃やして消えてもらいたい奴」ぐらいのニュアンスだろうか。

○主人公のサルヴァトーレは、シチリアの実在の労働運動家サルヴァトーレ・カルネヴァーレ Salvatore Carnevale (1923-1955)から着想されたあくまでもフィクションの人物。彼は、農地の占拠や石切場の労働者たちの待遇改善運動などを進めるも、しだいに仲間から浮き上がり、恋人に弱音をはいたり、マフィアに接近したりするが、結局は理想のために動いて殺されてしまう。

この人物を、タヴィアーニ兄弟とオルシーニは、典型的な殉教者や英雄のように描き出すのではなく、むしろあまりにも人間的だ、だから強がったり日和ったり、粋がったり泣いたりと、じつに矛盾に満ちた重層的な人物として描き出してゆく。

よくある英雄譚のプロットのようにでありながら、映像と映像のつなぎが唐突で、ぎこちなく、決して滑らかではないものの、ひとつひとつに力があり、矛盾をその勢いに飲み込みながら、みたことのない叙事詩的な世界が展開する。

○どこか1962年に公開されたフランチェスコ・ロージの『シシリーの黒い霧』を彷彿とさせるけれど、そちらはシチリアの義賊サルヴァトーレ・ジュリアーノの生き様と、彼が引き起こしたとされるポルテッラ・デッラ・ジネストラの虐殺事件と、その後の彼の不可思議な死を追いかけるミステリータッチの社会派映画。一方で、タヴィアー兄弟とオルシーニの作品のほうは、社会派というよりは、戦後の労働運動家をあくまでもフィクションとして描きだす。

そんな、労働運動家としては大いなる敗者となるサルヴァトーレの依り代となるのは、若きジャン・マリア・ヴォロンテだけれど、彼がまた実にすばらしい。ぼくが見たのはイタリア語版のDVDで、しかもイタリア語の字幕もついておらず、セリフがちょっと聞き取りづらかった。それでも白黒の見事な映像表現は圧倒的で、タヴィアーニの大いなる敗者の系譜の先駆けとなるヴォロンテの演技はじつに存在感があった。

タヴィアー兄弟の出発点として、とても価値のある作品だと思うのだけど、日本語版がないのは残念な限り。
YasujiOshiba

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