空海花

ペイン・アンド・グローリーの空海花のレビュー・感想・評価

4.4
ペドロ・アルモドバル監督・脚本。
アルマドバルの自伝的要素が織り込まれた作品。

脊髄の痛みから創作意欲も果て
生き甲斐を見出せなくなった
世界的映画監督サルバドール(アントニオ・バンデラス)
心と体も疲れ果て引退同然の日々を過ごすなか、自身の記憶を辿っていく。

アルマドバル監督のセンスがはち切れんばかりの色彩には恐れ入る。
オープニングからエンディングまで
素敵な画面が連綿と続く。
サルバドールの家、洞窟の家、友人の家…鮮やかな家具やフォルムのバリエーションに富んだアイテムたち🥚
日々の中から回想に入るのがとても自然で、この映像が監督の心象風景ではないかと思わされる。
土埃の中のペネロペ・クルスは
野生的な美しさ。
洗濯する女達の口ずさむ歌も魅惑的。
諦めと老い、その中において
アントニオ・バンデラスの憂いある演技は胸に迫るものがある。

ある再会をきっかけに
追憶のストーリーが躍動し始める。
しかしただ思い返すには
苦い思い出ばかりが残されていた。
この物語は、母の美しさとたくましさ
深い愛情に強い説得力がある。
ヘロインと追想。
脊髄の痛みと聞くだけで
絶望したくなりそう。
少年期には仲睦まじかった母。
時間は残酷である。

見る目が変わるだけ。映画は同じ。
身体的、抽象的困難
やめては戻るは、奴隷と同じ
旅だけでは生きられない、
愛だけでは愛する人は救えない。

映画人ならではの名言も
彼処に散りばめられる。

再会は一つではない。
来るべきタイミングに
痛みを伴いながら
自らを癒していく姿に胸が高鳴っていく。
「興奮してくれてうれしい」という台詞に泣いた。
そして彼の鮮明なルーツが現れた時といったら─
稲妻が迸るような衝撃。
何てニクい作りなのだろうか!

そこからは彼の心象風景が心に流れ込んでくるようだった。
鎮まる痛みの奥から、見つかる輝き
生命力が流れ出す泉のように。
その水にようやく身を委ねると
ハッとする見事な終幕。
映画監督としての心の境地と
芸術的な魂を
鮮やかに見せつけられた。

観終わって、タイトルに眼をやる。
痛み とは─
痛みは人の心を何て弱くするんだろう
そう思っていた。
だが過去の痛みと栄光と
彼には、意味がもう一つ出来たのだろう。


2021レビュー#060
2021鑑賞No.76


彼の母が座っていたソファーが
メチャクチャ欲しくなりました💜
空海花

空海花