いしはらしんすけ

デッド・ドント・ダイのいしはらしんすけのレビュー・感想・評価

デッド・ドント・ダイ(2019年製作の映画)
3.8
「名匠・ジャームッシュによる異色のゾンビコメディ」という惹句は、身も蓋もなさも感じつつ、それなりに的を射たキャッチだと思います。

まずそんなに過去作観てない私でも「いかにもっぽいわー」と思えるほどに、ジャームッシュ印のゆるい空気感といわゆる「オフビート」のギャグが全篇で堪能できます。

加えて何気に豪華なキャストのラインナップは、メインのビル・マーレイ、アダム・ドライバーをはじめ、ティルダ・スウィントン、クロエ・セヴィニー、スティーヴ・ブシェミ、トム・ウェイツ、そしてちょい出レベルのイギー・ポップ、RZA、そしてエスター・バリントに至るまで、ジャームッシュ・ユニバースの住人というか、彼の作品に出演経験のある面々がズラリ。

そしてそのキャスティングを活かしたメタ構造と小ネタパロディが、全部はとても拾い切れてない私のような弱者でも、楽しくて仕方ないんだなー、これ。

ほんでもってこのメタフィクションという仕掛けは、ゾンビ映画というジャンルにも適用されていて、そのへんの重層性、諸要素で韻を踏む感じも「らしい」作りなんじゃないか、と。

要は映画、フィクションにおけるいろんな「お約束」を脱構築、外していくことが明確に意識されていて、その素材として定型が広く知られるゾンビが選択されていると感じたんですが、どうでしょう?

ジャームッシュ自身は「物質文明批判が云々」とかインタビューで言ってましたが、そういった倉本聰チックな主張は表面上は薄め。

文学的素養や資質に基づいた知的なおふざけが余裕の境地で描かれた脱力コメディとの印象が、より強く残りましたわ。