HicK

るろうに剣心 最終章 The FinalのHicKのレビュー・感想・評価

3.6
《最高のコレオグラフィー》

【凄い殺陣演出】
感動。リアリティーある重力感を守りつつ、速さを追求したアーティスティックなファイトシーン。芸術的でありながら鈍い痛みも感じれるという最高の演出。一作目から邦画の枠を超えた演出だったが、ハリウッドでもここまで追求されたソードファイトは無いと思う。

【それに加え、顔出し】
スタントなしで俳優たちが演じるシーンが多いのも印象的。顔がよく見える。アクションシークエンスのカット割りも、顔を隠すためのカットというより単純に見やすいアングルで魅せるためのカットもしくは全力で俳優が戦えるための仕切り直しという好印象なカット意図が伝わってくる。

【よりアクション特化】
戦闘描写でいえば京都大火編が好きだったが、今作はストーリーが非常にシンプルなゆえにノンストップアクションのバトルロイヤル作品になっていて、よりアクションに特化されていたように感じた。邪魔な人間がいないゴジラの怪獣プロレスという感覚にも近い。そしてアクション監督の谷垣健治の凄さを改めて感じる。

【演技】
俳優たちはみんな凄みがあったが、中でも真剣佑がすごい。まさに心技体すべて揃った演技。やはり上手い俳優のサイコパス寄りの演技を観れるのは幸せ。

【ただ、売り出しとのギャップも】
ストーリーがシンプルという点では、宣伝文句にThe Final、「全員完結」とありながら、実質、剣心とエニシにしか物語は無く、他のキャラの誰かが欠けてもストーリー上は全く問題ないという宣伝文句との解離に完結作としての物足りなさを感じた。

特に、居る意味もないのに要所要所で持ち場があった斎藤一は、ミスリードで罠にかかるが、そのシークエンスそのものがストーリー上そんなに意味のない展開になっていたのも残念。(時間稼ぎとは言っているが…)

ラストシーンだけでいいので各キャラクターにお別れを言えるような締めが欲しかったというファンも多いのでは?

【もっと欲しいエニシの背景】
余計な物は切り落とし、剣心とエニシのドラマを魅せるという意図は伝わってきたのだが、それはそれで少し物足りない。そもそも「なんでエニシは姉さんの事をそんなに愛しているのか」がよく分からなかった。それはエニシが剣心と戦う最も大きな動機のはずだが、そんな彼の思いの源が伝わってこなかったので、いまいちメインストーリーにハマれなかった。

【総括】
完結作としてやりたい事、伝えたい繊細なストーリー、全てを考えると今作自体を分作にするのが相応しいと思ってしまった。「The Beginning」も鑑賞したが、とても素晴らしかった反面、今作のエニシを補うものではなかった。しかし不満な点を考慮しても、やっぱりこのアクション性はとても魅力的。アクション不毛の地でよくぞここまでの作品を作ってくれたと嬉しく思う。最高のコレオグラファー谷垣さん、さまさまです。
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