紅殻

悪人伝の紅殻のレビュー・感想・評価

悪人伝(2018年製作の映画)
4.0
いやあ…映画っていいね…

本来仲間のように交わることなどなかったはずのヤクザと警察の不思議な関係の他、子供や弱い者にはやさしくしてしまうヤクザの親分を揶揄しつつ酒の席で親分から顔をそらしてショットを飲み干す(目上の人への礼儀)はみ出しものの熱血刑事という栄養が摂れますね。
そして肝心なところでは刑事に甘いというか、裏切ることができないヤクザの栄養価の高さよ…。
映画じゃないと得られないんだよこのカロリーは。

結構なバイオレンスで常に誰か出血してるんですが、撮り方が上手くて血糊ちょっと苦手な私も食い入るように観ました。
殺人事件と裏社会が主題に置かれているからか、夜のシーンが多く、濡れたネオンの光が印象的でした。
カラオケボックスや違法なパチンコ屋、裏取引などに使われている倉庫などの赤や緑の照明と暗がりが続いて、いろいろあって最終的に白い昼日中の明るい場所にマ・ドンソクが降り立つシーンがとても際立っていると感じました。
終盤で取引をする刑事とヤクザの、暴力を含んだやりとりで発せられる「◯◯に地獄へ◯◯」というセリフは、本人達にとっても未知の形而上の愛だなと。
共犯関係に友情や愛を乗せてくるの好きだよね、韓国ノワール。(主語がでかい)

そして韓国の映画の良さとして、その映画の前提知識として当たり前に引用される古典文学や美術(聖書も好きよね)が鑑賞者のレベルを特に気にせずガンガンに入るところははずせないと思います。
前提知識あってこその秩序や物語論からの逸脱なので、観ていて言葉で説明できないようなエネルギーやスピード感があった時は、なんらかの“お約束”を壊して新しいものが創造されていることが多いワケです。
悪人伝にもそれがちゃんとあるよ♡

視聴中に(あー、たぶんこれ何かの暗喩?なんだろう?)と思ったまま、伏線が回収されていることに私は気づけなかったのですが、ダンテの神曲をモチーフとした絵画が出てきたら、そこは何が描かれているのかしっかり確認してください。

全員悪人なんだもん、凄いわ。
紅殻

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