紅殻

プロミシング・ヤング・ウーマンの紅殻のレビュー・感想・評価

4.0
今観るべき映画の一本。

個人的には「ゴーン・ガール」あたりから世の中の潮目が変わった感覚があり、この映画が高い評価を得たことは、様々な場面で女たちが命懸けの抵抗をしてきた事実と無関係ではないと考える。
周縁化されやすいgood girlではない女たち。そうした層が被害を被ることを、他の属性の人物が被害者となる場合となんら変わりないと訴えていることと向き合って欲しい。
隙を見せる女も悪いよ、という考えが浮かんだとしたら、自分の心の中にいるアルと徹底的に闘うことをおすすめする。
本邦でも卑劣なレイプ事件は絶えないが、被害者の口を塞ぐ風潮は今なお残っている。そろそろそういうの、やめましょう。

また、配給会社のセンスを疑うことはもう数えきれないほどあるけれど、“エンタメ”を標榜すふことで間口を広げたかったとしてもあまり良い表現ではないと感じた。
この映画が救いになるひとたちにとっては、エンタメと言い切られるのは喜ばしくはない、侮蔑に近いニュアンスを含んでいると感じる。
主人公は多少変わったところがあるとしても、決して私たちの理解が及ばないサイコパスではない。
かわいらしい色彩設計はゆめかわと言ってもいいし、ちりばめられたgirlyなメタファーは私たちにとっても卑近なもので、少なくとも完全なフィクションとして人生と切り離して鑑賞するのは難しい部分がある。
(日本版のポスターに挿入されたコピーは、むしろこの映画の製作陣に名を連ねるマーゴット・ロビーのTerminalにこそ相応しいのでは…とも)

作中の重要なシーンで、ブリトニー・スピアーズのToxicが流れるが、こちらも近年の社会運動と照らし合わせてみるとまた味の濃さが変わってくると思う。
私個人は映画に教訓を求めている訳ではなく、啓発的なテーマもひとつの物語が成立するよう慎重かつナラティブに扱われている方が好みではある。
しかし、この映画に関しては、楽しむと同時に価値観を塗り替えられる、または今まで目を逸らしていた傷口をやっとすすぐような機会として観ても良いのかもしれない。

あるシーンで、主人公の背景に映り込む高架を、貨物列車が横切ってゆく。
人生を前に進めるにあたってcarryするものがいかに多いのか、そうしたことを少し感じた。
紅殻

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